選手11人…なのに名前呼ばれず 女子部員、気づけば涙

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 あの時は気づいたら涙が止まらなかった。

 4月7日午後のグラウンド。大網、上総、市原緑の連合チーム(千葉県)の11人が監督を囲むように並んでいた。

 「1番……、2番……」

 春の大会でベンチ入りするメンバーの名前が呼ばれると、選手たちは背番号を受け取った。10人目まで発表され、終わった。

 大網の山崎南琉(なる)さん(3年)は名前を呼ばれることがなかった。唯一の女子部員。監督が話している間、目は赤くなっていた。

 規定では、参加選手の資格は「男子生徒」と決められている。知ったうえで、練習してきた。

 でも、やっぱりメンバー発表の日はいつも悔しくなる。「みんなと同じ練習をしているのに」。今年は最後の年。こみ上げた気持ちを抑えられなかった。

     ◇

 野球少年の兄に連れられ、小3から軟式野球のチームに入った。中学はバドミントン部。高校に進学すると、野球部の練習を何度も見に行った。高校野球に携わりたい。マネジャーとして入部を決めた。

 夏に3年生が引退すると、選手は1年生の3人に。2人組でキャッチボールもできない。

 「選手、ちょっとやってみないか」。米沢庄市監督(64)に声をかけられ、「お手伝い」として軽い気持ちで引き受けた。

 練習は筋力トレーニングを除き、同じメニューをこなした。連合チームの練習試合では外野を任された。

 しかし、スピードもパワーも男子にはかなわなかった。練習試合の打席では球が速くてバットに当たらない。守備では遠くまで投げられない。「足を引っ張っている」。落ち込む時も多かった。ただ、声だけはかすれるまで出した。

 秋、2人が辞めた。選手は幼なじみの小野優希(ゆうき)君(3年)との2人に。小野君が右手の指を骨折した時は、1人で監督のノックを受け、マネジャーが投げる球をネットに打ち込んだ。

 弱気になっても、練習後にマネジャーの先輩2人、小野君と過ごす時間は楽しかった。学校生活、前夜のテレビドラマ……話題は尽きず、部室からはいつも笑い声が漏れた。「3人がいたから、辞めようとは一度も思わなかった」

 徐々に練習の成果が出るようになった。内野を超える安打が増えた。入部した頃より2倍近く遠くに投げられるようになった。エラーも減った。

     ◇

 一緒にプレーして刺激を受けた選手もいる。上総の橋本翔丈(はやた)君(3年)。この春に連合チームを組み、練習試合で一塁を守った。

 失策が重なり、声が出せずにいた時のことだ。「橋本、いくぞ」。右翼から声が聞こえ、振り返ると手をあげる山崎さんが見えた。「ドンマイ、次あるよ」。負けそうな雰囲気でも後ろから声が聞こえていた。

 その試合後のメンバー発表で、山崎さんは泣いていた。「一番声を出しているのに大会に出られない。なのに、おれは何をやっているんだ」。春の大会は大敗したが、試合中は下を向かず、声を出し続けた。

 「連合を組んで成長できた。チームを組んだみんなに負けないよう戦いたい」。上総はこの夏、単独で大会に出場し、橋本君は主将を務める。

 山崎さんは今も練習を続けている。6月に肉離れで約3週間走れなかった時も、グラウンドに出て筋トレストレッチをした。今週末の練習試合にも出場する。

 高校最後の大会は泉と連合チームを組む。主将の小野君は「目標にしてきた『連合初の1勝』を一緒に達成したい」。

 山崎さんはグラウンドを走る仲間を眺めながら笑う。「やっぱり選手として一緒に戦いたかったなあ」

 大会には記録員として初めてベンチに入る。「チームの戦い方はよく理解している。経験を生かして勝利に貢献したい」。ベンチから精いっぱい声を出すつもりだ。

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