朝日新聞阪神支局襲撃から32年 記者遺影に市民ら献花

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 朝日新聞阪神支局(兵庫県西宮市)で記者2人が散弾銃を持った男に殺傷された事件から、3日で32年となった。支局に設けられた拝礼所には市民ら約590人が訪れ、亡くなった小尻知博記者(当時29)の遺影に手を合わせた。

 事件は1987年5月3日、憲法記念日の夜に起きた。発生時刻に合わせ、午後8時15分に渡辺雅隆・朝日新聞社社長ら関係者約100人が支局で黙禱(もくとう)を捧げた。この日は支局3階の襲撃事件資料室が一般開放。初めて訪れた西宮市の会社員、岡本一也さん(39)は「考えが違うものを暴力で封じるのは間違っている」と語った。民主主義の土台には思想や言論の自由があると大学で学んだという。「ヘイトスピーチの横行など、言論が一方通行になってコミュニケーションが深まらない現状に危機感を覚える」

 広島県呉市川尻町にある小尻記者の墓ではこの日午前、古川伝・朝日新聞大阪本社編集局長らが手を合わせた。古川編集局長は「後を継ぐ者として、言論の自由をきちんと守っていきますと誓った」と述べた。事件時、現場にいた高山顕治記者(57)は「毎年5月3日が来ると、あの日の悔しさ、悲しさがよみがえる。小尻記者の分も書いていかなければ」と話した。

5・3集会で「言うべき時は言わないと」

 1987年5月3日に起きた朝日新聞阪神支局襲撃事件をきっかけに始まった「言論の自由を考える5・3集会」(朝日新聞労働組合主催)が3日、兵庫県尼崎市で開かれた。市民ら約380人が集まった。

 32回目となる今年のテーマは「でも、言っちゃうね。令和日本 私のファーストペンギン宣言!」。群れから海に飛び込む最初のペンギンになぞらえ、声を上げる大切さをパネリストらが語り合った。

 お笑い芸人の「せやろがいおじさん」は、社会問題への思いを叫んで伝える動画を発信している。「言いにくいことを最初に言うファーストペンギンになるために、相手の主張を認めてから自分の主張をするよう心がけている」。憲法学者の南野森(しげる)・九州大教授は「物言えば唇寒しという社会への慎重さから意見を言わない若者が増えている気がするが、言うべき時は言わないといけない」と訴えた。

 朝日新聞の仲村和代・社会部記者は「声を上げるのは怖いことだけど、同じ思いの人たちが支えてくれるはず」。進行役を務めた元TBS報道アナウンサーの下村健一さんも「出る杭を打つ社会だとファーストペンギンが飛び込めない。多様な声に耳を傾けられる社会であることが大事」と語った。

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