朝日新聞デジタル：前県警捜査３課盗犯捜査指導官諸田輝光さん - 群馬

つなぐ　捜査の職人たち

前県警捜査３課盗犯捜査指導官諸田輝光さん

　「突如、自分の財産がなくなる。盗みの被害に遭った被害者は、そんな恐怖感や嫌悪感にとらわれる。１件でも多く容疑者を摘発して安心してもらいたい」

　県警捜査３課で、今年３月まで盗犯捜査指導官を１年間務めた警視の諸田輝光さん（５５）は、そう話す。

　県内の窃盗事件は多い。県警が昨年に認知した刑法犯は１万６２７５件あり、窃盗はうち７割超の１万１５０５件を占めた。窃盗捜査は長く捜査１課で担っていたが、対応強化が必要と２００５年、専従部隊として捜査３課が独立した。

　指導官の諸田さんは、まず事件資料を読み込む。被害品や手口、聞き込み情報を調べ、ほかの事件との共通点を探る。窃盗は、１人の容疑者やひとつのグループが複数の事件に関与していることが多い。資料や現場写真に容疑者の癖がひそんでいる。それを見逃してはならない。

　「捜査の基本は窃盗事件だ。そこで得た技術がほかの事件の捜査につながる」と考える。

　窃盗の捜査には２０年近く携わった。前橋署や機動捜査隊の後、１９９４年に捜査１課盗犯捜査の主任（当時）になり、本格的な捜査技術を学んだ。太田署刑事１課などを経て２００２年には再び捜査１課に戻って盗犯捜査の係長に。窃盗の認知件数が常に県内上位の高崎署でも指導官や刑事１課長を務めた。

　捜査１課盗犯捜査の主任だった９５年ごろ、群馬や埼玉、新潟各県などでホンダのバイク「スーパーカブ」が相次いで盗まれた事件に挑んだ。被害は約１万台に及んだ。伊勢崎署に捜査本部を置き、解明に奔走した。

　伊勢崎市に住む複数のベトナム人が関与していることをつかんだ。県外でも盗んでいる疑いが強まり、東京や千葉にも捜査員が向かった。都内の新聞販売所でバイクを盗む瞬間をとらえ、まず４人を現行犯逮捕した。盗んだバイクを買い取る主犯格も割り出し、計２４人を逮捕した。被害に遭うかも、と心配する人たちに「安心して眠ってもらえる」と思った。

　一連の捜査では、容疑者の行動を気づかれないように探る「尾行」が役立った。容疑者１人を約１０人の捜査員が追った。連日連夜、相手の立ち寄り先や拠点を突き止めるために、ひたすら歩いた。電車に乗り込めば同じように一般客を装って乗り、歩き出せば尾行を悟られないような距離を保って追う。

　警察学校では尾行のやり方を教えてくれない。容疑者の行動パターンを記録するマニュアルもない。「どうやるか、自分で考えろ」と後輩には言い続ける。

　自らも若い頃、先輩にそう指導された。先輩の尾行を妨げないように標的との距離を取ったり、歩幅を考えたりしながら覚えた。

　「自分の家族が被害に遭ったらどんな思いをするだろうか」。容疑者を追う先輩の背中が、そう教えてくれていると感じた。同じことを諸田さんは後輩に伝えてきた。「靴底を減らしてなんぼだよ」。地味で根気のいる尾行の基本を繰り返し説く。

　指導官として各署を回り、若い警察官を連れて現場に行く。「少しでも早く技術を身につけ、自分の捜査が容疑者の逮捕につながれば、達成感や仕事の楽しさをわかってくれる」と信じている。

　約２０年前から一緒に捜査してきた警部補（５３）は諸田さんをこう評した。「夜中でも、疲れていても『もう少し、もう少し』と尾行や調べを続ける。現場の苦労を知っているだけに現場の意見をくみ取り、指示も的確だ」

　その警部補は若手に「仕事を終えて帰宅前に、事件に関わる場所にちょっと寄ってみな」と呼びかける。新たな発見や、解決につながる情報を得られるかも知れず、「それを楽しんでほしい」と願う。（上田雅文）

◇

　もろだ・てるみつ　昭和村出身。中学、高校時代は柔道に夢中だった。柔道大会で知り合った警察官に憧れて１９７９年、警察官に。柔道は３段。今年３月１８日の人事で捜査１課の強行犯や性犯罪の捜査指導官に。自動車警ら隊員だった１９８５年に起きた日航機墜落事故では、遺族の支援に努めた。取れた休みの日には、妻と温泉巡りや登山を楽しむ。

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