夏目漱石「三四郎」(第九十二回)九の八

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 「御母(おっか)さんが心配して、長い手紙を書いて寄こしましたよ。三四郎は余儀(よぎ)ない事情で月々の学資を友達に貸したというが、いくら友達だって、そうむやみに金を借りるものじゃあるまいし、よし借(かり)たって返すはずだろうって。田舎(いなか)のものは正直だから、そう思うのも無理はない。それからね、三四郎が貸すにしても、あまり貸方(かしかた)が大袈裟(おおげさ)だ。親から月々学資を送ってもらう身分でいながら、一度に二十円の三十円のと、人に用立てるなんて、如何(いか)にも無分別だとあるんですがね――何だか僕に責任があるように書いてあるから困る。……」

 野々宮さんは三四郎を見て、にやにや笑っている。三四郎は真面目に、「御気の毒です」といったばかりである。野々宮さんは、若いものを、極め付けるつもりでいったんでないと見えて、少し調子を変えた。

 「なに、心配する事はありま…

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