夏目漱石「三四郎」(第九十回)九の六

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 三四郎はその夕方野々宮さんの所へ出掛けたが、時間がまだ少し早過ぎるので、散歩かたがた四丁目まで来て、襯衣(シャツ)を買いに大きな唐物屋(とうぶつや)へ入った。小僧が奥から色々持(もっ)て来たのを撫(な)でて見たり、広げて見たりして、容易に買わない。訳もなく鷹揚(おうよう)に構えていると、偶然美禰子とよし子が連れ立って香水を買いに来た。あらといって挨拶をした後で、美禰子が、

 「先達(せんだっ)てはありがとう」と礼を述べた。三四郎にはこの御礼の意味が明らかに解った。美禰子から金を借りた翌日(あくるひ)もう一遍訪問して余分をすぐに返すべき所を、一先(ひとまず)見合せた代りに、二日ばかり待って、三四郎は丁寧(ていねい)な礼状を美禰子に送った。

 手紙の文句は、書いた人の…

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