夏目漱石「三四郎」(第八十三回)八の九

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 美禰子も三四郎も等しく顔を向け直した。事務室と書いた入口を一間ばかり離れて、原口さんが立っている。原口さんの後(うしろ)に、少し重なり合って、野々宮さんが立っている。美禰子は呼ばれた原口よりは、原口より遠くの野々宮を見た。見るや否(いな)や、二、三歩後戻りをして三四郎の傍(そば)へ来た。人に目立ぬ位に、自分の口を三四郎の耳へ近寄せた。そうして何か私語(ささや)いた。三四郎には何をいったのか、少しも分らない。聞き直そうとするうちに、美禰子は二人の方へ引き返して行った。もう挨拶をしている。野々宮は三四郎に向って、

 「妙な連(つれ)と来ましたね」といった。三四郎が何か答えようとするうちに、美禰子が、

 「似合(にあ)うでしょう」…

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