夏目漱石「三四郎」(第八十回)八の六

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 「佐々木さんが、あなたの所へいらしったでしょう」といって例の白い歯を露(あらわ)した。女の後には前(さき)の蠟燭立(ろうそくたて)が暖炉台(マントルピース)の左右に並んでいる。金で細工をした妙な形の台である。これを蠟燭立と見たのは三四郎の臆断(おくだん)で、実は何だか分らない。この不可思議の蠟燭立の後に明らかな鏡がある。光線は厚い窓掛に遮(さえぎ)られて、充分に這入らない。その上天気は曇っている。三四郎はこの間に美禰子の白い歯を見た。

 「佐々木が来ました」

 「何といっていらっしゃいま…

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