夏目漱石「三四郎」(第七十五回)八の一

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 三四郎が与次郎に金を貸した顚末(てんまつ)は、こうである。

 この間の晩九時頃になって、与次郎が雨の中を突然遣(や)って来て、冒頭(あたま)から大いに弱ったという。見ると、例(いつ)になく顔の色が悪い。始めは秋雨(あきさめ)に濡(ぬ)れた冷たい空気に吹かれ過ぎたからの事と思っていたが、座に就(つ)いて見ると、悪いのは顔色ばかりではない。珍らしく銷沈(しょうちん)している。三四郎が「具合でも好くないのか」と尋ねると、与次郎は鹿のような眼を二度ほどぱちつかせて、こう答えた。

 「実は金を失(なく)なして…

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