夏目漱石「三四郎」(第七十三回)七の五

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 広田先生が「君近頃何をしているかね」と原口さんに聞くと、原口さんがこんな事をいう。

 「やっぱり一中節(いっちゅうぶし)を稽古(けいこ)している。もう五つほど上げた。花紅葉(はなもみじ)吉原八景(よしわらはっけい)だの、小稲半兵衛唐崎心中(こいなはんべえからさきしんじゅう)だのってなかなか面白(おもしろ)いのがあるよ。君も少し遣って見ないか。尤(もっと)もありゃ、余り大きな声を出しちゃいけないんだってね。本来が四畳半の座敷に限ったものだそうだ。ところが僕がこの通り大きな声だろう。それに節廻(ふしまわ)しがあれでなかなか込み入っているんで、どうしても旨(うま)くいかん。今度(こんだ)一つ遣るから聞いてくれ玉え」

 広田先生は笑っていた。する…

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