夏目漱石「三四郎」(第五十三回)五の八

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 一丁(ちょう)ばかり来た。また橋がある。一尺に足らない古板を造作なく渡した上を、三四郎は大股に歩いた。女もつづいて通った。待ち合せた三四郎の眼には、女の足が常(つね)の大地(だいじ)を踏むと同じように軽く見えた。この女は素直(すなお)な足を真直(まっすぐ)に前へ運ぶ。わざと女らしく甘えた歩き方をしない。従ってむやみにこっちから手を貸す訳に行かない。

 向うに藁屋根(わらやね)がある。屋根の下が一面に赤い。近寄って見ると、唐辛子(とうがらし)を干したのであった。女はこの赤いものが、唐辛子であると見分けのつく処まで来て留った。

 「美くしい事」といいながら…

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