夏目漱石「三四郎」(第四十六回)五の一

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 門を這入(はい)ると、この間の萩(はぎ)が、人の丈(たけ)より高く茂って、株の根に黒い影が出来ている。この黒い影が地の上を這って、奥の方へ行くと、見えなくなる。葉と葉の重なる裏まで上(のぼ)って来るようにも思(おもわ)れる。それほど表には濃い日が当っている。手洗水(てあらいみず)の傍(そば)に南天(なんてん)がある。これも普通よりは脊(せ)が高い。三本寄ってひょろひょろしている。葉は便所の窓の上にある。

 萩と南天の間に縁側(えんがわ)が少し見える。縁側は南天を基点として斜(はす)に向うへ走(はしっ)ている。萩の影になった所は、一番遠いはずれになる。それで萩は一番手前にある。よし子はこの萩の影にいた。縁側に腰を掛けて。

 三四郎は萩とすれすれに立(…

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