はやぶさ2、職人の技が支える世界初のミッション

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神田明美 今直也
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 小惑星からの試料持ち帰りを目指す小惑星探査機はやぶさ2」。機体や搭載装置は、日本のものづくり技術の粋が結集する。大手メーカーから数人の町工場まで100社以上が携わった。職人たちの思いも乗せ、30日に鹿児島県種子島宇宙センターから打ち上げられる。

 はやぶさ2は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)からNECが設計や組み立てを請け負った。2018年夏に小惑星「1999JU3」に到着する。ミッションの目玉は表面に人工クレーターをつくり、太陽の熱や太陽の影響を受けていない地下物質も持ち帰ること。世界初の挑戦だ。

 その成否の鍵を握る装置が、クレーターをつくる「衝突装置」。衝突装置の心臓部にあたる円錐(えんすい)形の「爆薬部分」は、福島県西郷村にある破砕薬メーカー日本工機白河製造所など福島県の工場が作った。

 日本工機の松崎伸一さん(43)は「期限に間に合うよう夢中で作った。使われる4年後になったら、きちんと作動するかプレッシャーを感じるでしょうね」。

 円錐形のステンレス製の本体と銅製の底板でできた容器に爆薬が詰められた装置。爆発で底の直径約25センチの銅板が秒速2キロで発射され、勢いで丸く変形しながら小惑星に衝突、クレーターをつくる。

 容器と銅板の製造を受け持ったのは、同県鏡石町の精密部品メーカー石川製作所。11年初めに開発を始めた。子会社タマテックとともに作り、同県郡山市の東成イービー東北がステンレスと銅を溶接した。

 着手して間もなく東日本大震災が発生。日本工機の敷地内は道路が割れ電柱も傾き、職人の自宅も半壊、1カ月以上、工場が停止した。だが、7カ月後の10月に予定される最初の試験の延期はできない。車のガソリン確保に苦労し物流も止まる中、再開後は休日返上が続いた。

 初めての装置で試行錯誤の連続。最初は円錐形容器をアルミニウム製にし、銅板をネジで取り付ける計画だったが、中の爆薬がもれる可能性があるとわかった。溶接でつなぎ合わせることになり、銅との溶接が難しいアルミニウムからステンレスに変更した。

 これが大きな転換だった。重量を抑えるため、塊から削り出す容器の側面の厚さは3ミリが1ミリに変更された。タマテック副社長の吉田武さん(51)は「1ミリは常識を超えている。加工は3倍難しくなった」。石井勇寿さん(36)らが、刃物を慎重に選んで削った。

 溶接も簡単にはいかなかった。職人がステンレスと銅が溶け込み一体化する深さを何度も試行した。

 容器にとろろ芋状の爆薬を詰める作業は、日本工機の川堀正幸さん(48)らが担当した。2センチの口から気泡ができないように慎重にすみずみに詰めた。詰めた爆薬は取り出せず、失敗したら、その容器は使えない。JAXAで衝突装置を担当する佐伯孝尚さん(38)は「工場に行って無理も言ったが、よい装置ができた。すごく仕事も速かった」と話している。

■100分の1ミリの闘い…

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