夏目漱石「三四郎」(第二十六回)三の十二

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 三四郎は新らしい四角な帽子を被(かぶ)っている。この帽子を被って病院に行けるのがちょっと得意である。冴々(さえざえ)しい顔をして野々宮君の家を出た。

 御茶の水で電車を降りて、すぐ俥(くるま)に乗った。いつもの三四郎に似合わぬ所作(しょさ)である。威勢よく赤門を引き込ませた時、法文科の号鐘(ベル)が鳴り出した。いつもなら手帳(ノート)と印気壺(インキつぼ)を持(もっ)て、八番の教室に這入る時分である。一、二時間の講義位聴き損(そく)なっても構わないという気で、真直(まっすぐ)に青山(あおやま)内科の玄関まで乗り付けた。

 上(あが)り口(ぐち)を奥…

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