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第二部で行われたパネルディスカッションの様子。各パネリストの活動から、地域をどのようにデザインしていくかが話し合われた
新設される「観光コミュニティ学部」は、新しい事業の創造を「デザイン」と捉え、「観光」と「コミュニティ」の両面から地域の活性化を学ぶという全国的にも珍しい学部。これからの時代にふさわしい学びの場として各方面からの関心は高く、記念シンポジウムには一般の方を中心に、学生の姿も数多く見られた。
「本学部は地域と共生していくことをお約束する」という山田徹雄学長のあいさつに続き、登壇したのは自らも「ぶんきょう学」という講座を受け持つ予定の成澤廣修文京区長。「文京区という地域が学生たちのよきフィールドワークの実践の現場になるよう対応したい。キーワードは『まち歩き』。歩くことでまちを再発見することは、学生の学問になると同時に地域振興にもつながっていくはず。相乗効果を期待したい」と、意気込みを語った。
跡見学園女子大学
山田徹雄学長
「ぶんきょう学」を受け持つ成澤廣修文京区長
プロローグメッセージを寄せたのは、高齢化が進む日本を今後いかに成熟社会にしていくかが重要、と話す青森大学の見城美枝子教授。
「文京区と地域、世界をどうつないでいくか。学生の方々にはその点を含め、観光コミュニティ学部での学びを深めてほしい」と、「観光コミュニティ学部」への期待を述べた。さらに、自身が関わった各地のコミュニティデザインを紹介。修復に必要なレンガの購入資金を寄付で募ると同時に、寄付した人の名前をレンガに刻み、完成後の観光客増加につなげた「北海道の岩見沢駅舎」などについて語った。
続いて、全国の自治体から現在進行形で広がりを見せているコミュニティデザインの活動事例が報告された。
最初に紹介されたのは新潟県山古志村の人々。2004年の新潟県中越地震によって壊滅的な被害を受けた山古志村の錦鯉産業を守るため、住民と愛好者が取り組む活動を紹介。さらに、千葉県からは房総半島中央部を走るいすみ鉄道の事例を紹介。経営悪化により廃止が検討されるなか、沿線住民と全国の鉄道ファンが応援団を結成。知恵を出し合い経営の立て直しに成功したエピソードを披露した。最後は路地や坂が多い長崎市の景観をまち歩きによって魅力に変える活動「長崎さるく」を紹介。地元の人がガイドを務め、長崎市の良さを伝える取り組みが報告された。
学生らは積極的に意見を述べた
第一部の最後には、学生と区民で地域を活性化させる活動が報告された。今年7月から、跡見学園女子大学ではコミュニティデザインの第一人者である政所利子さんを講師に迎え、文京区をより暮らしやすく、より活気あふれるまちにするためのセミナーがスタート。学生と区民が一緒になってまちの課題を共有し、人と人とがつながり、地域に根ざした交流のまちづくりを行う取り組みだ。セミナー報告として、学生と区民から文京区の文化財を区民の交流の場として活用することについて提案された。
最後に政所さんが「私たちは家ではなくまちに住んでいる。その認識を改めて感じ直し、さまざまな行動、仕事へとつなげていきたい」とまとめた。
第二部では、全国各地でコミュニティデザインを実践している女性たちが登壇。これまでの活動内容を紹介し、日本の未来への道筋を語った。
株式会社 玄
代表取締役
政所利子さん
青森大学教授・
エッセイスト・ジャーナリスト
見城美枝子さん
有限会社 良品工房
代表取締役
白田典子さん
フードコーディネーター・
料理研究家
しもおきひろこさん
NPO法人 菜の花プロジェクト
ネットワーク 代表
藤井絢子さん
白田 2001年から「いいものプロジェクト」という商品評価システムを始めました。消費者モニターの方に商品を食べたり、使ったりしてもらって感想を聞き、7割以上の方が「買いたい」と答えた商品には「いいものシール」を発行。100円の商品であれば、100円以上の価値があるというような目安にしてもらえることを目指しています。
以前、小売業の方から「何が売れるかわからない」という本音の言葉を聞き、それがとても印象的でした。そこで、これまで生産者、小売業、消費者という1、2、3の流れだったのを、1、3、2という順番に入れ替える発想が生まれたのです。モニターの方から戻ってくるアンケートの中には、「同じような商品でこんなパッケージがあったよ」といってパッケージも一緒に送ってくださる方もいて、貴重な情報源になっています。
しもおき 私は石川県の能登を中心に、レストランメニューのリニューアルや商品開発、従業員教育などを行っています。商品をどのようにして売るかということにも関わり、例えば、昨年、大阪や京都の料亭に配送され、一般にはほとんど流通していない「小菊カボチャ」のパンフレット制作を行いました。予算がほとんどないため、デザインを地元の美術系学校の学生にお願いしました。予算を抑えつつ、どうすればクオリティを上げていけるかを一緒に考えて作っていきました。学生にとっては、社会における実践の場にもなります。生産者の方は、パンフレットや学生らのことをたいそう気に入ってくれ、今年も活動をしています。もっと地元での認知度を高めたいという要望があったので、パンフレットを完成させただけでなく、生産者の方と学生らの交流を生んだことに大きな意義があると感じています。
藤井 今から37年前、滋賀県の琵琶湖に大量の赤潮が発生しました。地域住民である私たちも美しい琵琶湖を汚しているという事実から、「せっけん運動」を始め、有リン合成洗剤ではなく、せっけんの利用を推進し、琵琶湖の水環境の向上に取り組みました。地域の課題を行政任せにするのではなく、ともに連携をとりながら自分たちも行動を起こす必要があると思います。
1990年代ごろから、地球温暖化が非常に大きな問題となりました。二酸化炭素を排出する化石燃料に変わるものとして地域の廃食油を活用することを考えました。増加する耕作放棄地に菜種を植え、食用として活用し、廃食油もエネルギー源として活用する。地域としてよい循環を生む仕組みを作り、経済的にも成り立つよう事業を回しています。
ほかにも農業高校の生徒を中心に、地域食材を用いた高校生レストランも手掛けています。農業をしっかりと学んだ彼らの存在は地域にとって非常に貴重な存在です。
見城 農業高校の学生はとても優秀ですね。農業者の取り組みを記録し、発表する「農業記録賞」の審査委員を長年担当させていただいているのですが、これには一般部門だけでなく、高校生部門もあるんです。専門的な内容の発表が全国から集まり、いつも感心しています。
昨今、農業の6次産業化が進んでいます。6次産業化とは、農業などの1次産業が、2次産業の食品加工、3次産業の流通販売まで含めて事業展開することです。こうした流れに、観光コミュニティ学部を卒業した学生の方々が、地域を広く見渡しながらうまく関わっていってほしいですね。
政所 私たちは空気や水、衣食住すべてが地域と深く関わっていることを忘れてはなりません。パネリストの方々の活動事例のように、明るい日本の未来をつくるカギは、私たちが握っています。
東京大学教授、東京大学先端
科学技術研究センター所長
西村幸夫さん
登壇された方のお話に共通するのは生活者の視点です。地域で暮らす全体像をイメージしながらコミュニティビジネスを生み出していく。これは、男性的価値観から女性的価値観への転換でもあると思います。これまでの男性が外で働くという価値観の中で、生活を担ってきたのは女性です。子育てと同様、どれか一つをやればいいのではなく、生活者、あるいは女性的な視点から人、もの、ことをすべてつないでいくのがコミュニティデザインです。
今回の新学部開設は、単に一つの大学に一つの学部ができるということを超えて、文化の流れが非常に大きな変革を迎えていることを象徴しているのではないでしょうか。