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2012年12月20日11時22分
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特別リポート: 廃炉ビジネス狙う海外企業、見えない壁に高まる批判

:12月19日、「海外企業は蚊帳の外」――。東京電力の福島第一原子力発電所で5月撮影(2012年 ロイター/Tomohiro Ohsumi/Pool)拡大12月19日、「海外企業は蚊帳の外」――。東京電力の福島第一原子力発電所で5月撮影(2012年 ロイター/Tomohiro Ohsumi/Pool)

 [東京 19日 ロイター] 「海外企業は蚊帳の外」――。東京電力<9501.T>の福島第一原子力発電所の廃炉作業をめぐり、欧米の原発関連企業からこんな批判の声が上がっている。廃炉作業に参画するためのプロセスが不透明で、海外で廃炉作業の実績がある企業でさえ関与できていないためだ。

 事故直後の密室の対応で内外から非難を浴びた日本政府や東電。廃炉に向けて「国内外の英知を結集する」と宣言したはずだが、海外勢の目にはそうは映っていない。

 廃炉作業の経験を持つ米エンジニアリング大手ショーグループ。同社パワーグループ部門のジェフェリー・メリーフィールド副社長は、東芝<6502.T>と共同開発した放射能汚染水処理装置を納入した以外は「福島のどのプロジェクトにも(主体的に)関わっていない」と肩を落とす。

 同社は1979年の米スリーマイル島、1986年のチェルノブイリ(旧ソビエト連邦、現ウクライナ)の2つの原発事故で除染・廃炉作業を支援し、米国では商業用原子炉8基の廃炉作業を手がけている。米国原子力規制委員会(NRC)にも9年間務めた同副社長は「日本企業だけですべて試してやってもいいが、そのような方法では何度も失敗しかねない。経験から得た知見無しでは時間がかかる」と指摘する。

 廃炉作業では福島第一原発の設計・建設に携わった日立製作所<6501.T>と東芝が、政府と東電から委託される形で陣頭指揮を執っている。現場では原子炉の冷温停止状態を維持するために増える汚染水との闘いが今も続き、水素爆発した原子炉建屋は損傷したままだ。こうした事故後の廃炉作業は世界でも前例がない。

 東芝、日立傘下の日立GEニュークリア・エナジー、三菱重工業<7011.T>の3社は、国から支援を受けて事故対応技術の開発を担当しており、各社が必要な技術について競争入札を行い、外部有識者の意見をもとに事業者を選定している。三菱重工は今月、最初の案件の公募を開始したばかりだが、東芝と日立GEが3月以降に公募した21件の技術開発プロジェクトでは、海外企業は1社も選ばれなかった。

 欧米の原発関連企業6社の役員らはロイターの取材に対し、「事業者選定のプロセスが不透明で、選定理由の説明もほとんどない」といら立ちを隠さない。ショーのメリーフィールド副社長も参加した入札案件について詳しくは明かさなかったが、過去の事故対応に関わった企業を積極的に活かそうとせず「事故対応技術をゼロから開発し直そうとしている」と日本勢のやり方に首をかしげる。

 <名ばかりの英知結集>

 こうした海外からの批判に対し、日立GEと東芝は海外企業を故意に排除していないと断言する。事業者選定にあたっては外部有識者8人から成る専門委員会の意見を仰いだ上で、技術・コストなどで高得点を獲得した事業者と契約しており、公平に判断しているという。同委員会の委員長を務める東京大学の淺間一教授も、機能、価格、実績や信頼性、納期などを総合的に勘案して評価しており、「高い技術があるのに海外企業という理由だけで選考から外すことは絶対にない」と反論する。

 日本政府と東電は、昨年3月の段階でも海外からの事故処理向け遠隔ロボットの提供の申し出を拒否し、その対応が非難された。その後はより柔軟に海外支援を受け入れることを約束。経済産業省が今春、国内外の公募を通じて廃炉作業に使えそうな技術をカタログとしてまとめた際には、仏原子炉メーカーのアレバや英エンジニアリング大手エイメックなどの遠隔除染や原子炉修理の技術提案を受け入れた。

 東電の広瀬直己社長は10月のロイターの取材で、福島第一原発の1─4号機の廃炉と損傷燃料の取り出し作業に向け「世界中から専門知識を求めている」と英語で語り、政府同様、海外の知見を幅広く活用すると強調した。だが、国内の原発業界関係者からも現状を問題視する声は出ている。36年間東電に勤務し、副社長も務めた日本原子力産業協会の服部拓也理事長にも、海外から「あまり具体的な成果がないとのクレーム、フラストレーションの声が届いている」。日本企業を優先している証拠を示すのは難しいが、結果を見れば「そうだと思わざるを得ない。私はもっと(海外にも)オープンに、と強く言っているが、残念ながらそういう感じにはなっていない」と話す。

 <短い公募期間>

 海外からは技術開発案件の公募期間が短すぎるとの指摘もある。提案書の準備が間に合わず、結果的に入札できないためだ。公募期間は技術項目によって異なるが、平均で2週間。東電に見解を求めると、福島原発で迅速に適用できる技術を求めており、そのために公募期間が短くなる場合もあると入札を実施する3社を擁護し、「結果的に海外企業が入札できなかったとすれば残念」と書面で回答した。

 日立GEは入札実施の告知だけでなく、インターネット上に日本語と英語で公募開始1カ月前から予告も掲載しており、「短い」とされる公募期間は海外企業を締め出すためではないと釈明する。東芝も事業者が決定するまで公募内容をネットに掲載している。だが、東大の淺間教授は、言語や期間など公募のしくみに「問題がまったくなかったとは思っていない」と不備を認めており、今後は海外から応募しやすいよう改善されていくと語る。

 事実、経産省は海外勢の批判を受け、対応に乗り出した。公募期間の延長を3社に指示し、11月12日付の案件では4週間に変更された。また原発保守管理を手がけるアトックス(東京・中央)が策定する損傷燃料取り出し準備作業での建屋内の作業員の線量低減策では、海外企業に限定してソリューションを募集することを決めた。同省資源エネルギー庁の舟木健太郎・原子力発電所事故収束対策室長は「税金を使わせて頂きながら取り組んでいるプロジェクト。まず国民に対してできるだけ透明性を確保することが第一」とし、海外企業からも情報や助言を受けながら作業を進めていると説明した。

 <日本特有の事情も>

 とはいえ、福島の廃炉作業は国内企業が中心にならざるを得ないという日本特有の事情もある。国内原子炉メーカー幹部によれば、日本企業は海外勢より顧客対応に優れており「痒いところに手が届く」。だが、「海外企業はバックアップ体制が弱い。トラブルが起きた時、すぐに連絡が取れて駆けつけてくれる会社でないとなかなか難しい」のが本音だという。

 「日本の技術に対する信頼性の高さ」(同幹部)も1つの要因だ。現に放射能汚染水処理装置では、アレバと米キュリオン製のシステムがたびたび故障して停止。その後、東芝がショーと共同開発した装置が導入されている。東芝が放射性廃棄物処理大手の米エナジーソリューションの基本設計をもとに製造した高機能装置も9月から現地で試運転を開始しており、年明けにも本格稼働する見通しだ。

 別の国内原子炉メーカー幹部は「日本では言葉の問題もあり、リスク管理の観点から日本企業を選好する傾向は否めない」と話す。キュリオンのジョン・レイモント最高経営責任者(CEO)は今月、東京でロイターの取材に応じ、「もし立場が逆だったら、米国人は米国企業が指揮を執ってほしいと思うだろう」と日本の現状に一定の理解を示した。これらの事情を踏まえてか、今月都内で会見したアレバのリュック・ウルセルCEOは、日本での事業は単独ではなく「日本企業とパートナーシップを組む」形で展開する意向を明らかにしている。

 <狙いは福島原発の先>

 今年改正された原子炉等規制法では原発の運転期間は原則40年と規定されている。国内原子炉50基のうち約3分の1が運転開始から30年を超える。今回の政権交代で民主党政権が打ち出した「2030年代に原発稼働ゼロを目指す」方針は見直される公算が大きいが、40年運転制限の原則に従えば多くの原子炉は近い将来、廃炉の道を辿ることになる。

 廃炉にかかる年数は30年以上。政府の第三者委員会が過去の原発事故を参考にした試算した廃炉費用は1兆1500億円。長期化すれば、費用はさらに膨らむ可能性もある。キュリオンのレイモントCEOは「特別なノウハウを持つ企業には、日本でも門戸は開かれている」と今後の参画に期待を込める。海外のエンジニアリング会社幹部も「最終的には福島だけではなく、日本にある原発すべてが狙い。日本企業との信頼関係を構築できれば、我々ができる仕事はたくさんある」と意気込む。

 日本が海外からの知見を積極的に受け入れ、廃炉のノウハウを磨けば、原発を持つ他の国でも貢献することが可能になる。血税を投入し、国民の生活や命にも関わる廃炉作業に妥協は許されない。日本が脱原発へと向かうためにも廃炉作業のレベル向上は不可欠で、文字通り「国内外の英知結集」が求められている。

 (ロイターニュース 斎藤真理 白木真紀;編集 大林優香)

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