山崎亮は「付箋職人」を自称する。
ワークショップでKJ法と呼ばれる議論の方法を選ぶことが多く、付箋は必須アイテムだ。参加者は「特徴」「課題」「提案」と色の違う3種類の付箋に考えを書き、目の前の模造紙に貼っていく。参加者の考えを「見える化」するためだ。
ただ、似たアイディアをまとめて共通するキーワードをつけるだけでは、アイディアは膨らまない。どこかで聞いたような、代わり映えしないものの域をでない。
「参加者から出てきた言葉を、その人が思いつかなかったようなアイディアにして投げ返すことが、ファシリテーションする側に求められている技術なのだと思います」
ワークショップでは、参加者が「自分はすごいことを言った」と錯覚し、「すごいプロジェクトに発展している」と感じるように、住民からでた声を編集しながらデザインするのだ。
とはいえ、山崎が事前にあたためていた考えや結論を押し付けることはしない。流れのなかで、参加者が気づいたり、やりたいと思っていたりすることが、事前に考えていたアイディアと重なるようであれば、「こんな考え方もありますね」「こんなやり方で進めたらどうでしょう」と流れをつくることもあるが、そのタイミングは慎重に見極める。
誘導されていると受け止められれば、参加者の士気は下がるからだ。ワークショップで決めたプロジェクトを担うのはほかならぬ住民たちだけに、主体性を損なわないよう細心の注意を払っている。
なにより、参加者から出た生の言葉をプロジェクトに育てることに心を砕く。
「それって、こういうことですよね」
参加者自身が言葉にできなかった思いや、ふと浮かんだ考えが目の前でバージョンアップされるのを目の当たりにすると、ワークショップは自然と熱を帯びてくる。それこそが、ファシリテーターの腕の見せどころ、ということになる。このとき、山崎の頭の中は「ケータイの予測変換」のように動いているのだという。
「ある言葉を聞いたら、すぐに20ぐらいの事例が浮かび、話が進むにつれて、そのいくつかが入れ替わっていく。話が終わるころには五つぐらいの事例に絞り込まれ、それらを混ぜ合わせて新しいアイディアへと練り上げるんです」
だから、どの考えとどの考えを組み合わせたら面白いか、をつねに考えている。その繰り返しから創造的なプロジェクトが生まれてくる。そのためにも、膨大な事例を頭に入れている。
スタッフはプロジェクトごとにビルのように積み上がるほどの関連本に目を通す。さらに、ひとつのプロジェクトで100以上のアイディアを求められる。「アイディアは質ではなく量を」「実現の可能性は問わない」。とにかく考え抜くことで、常識や発想の枠を取っ払うためだ。そのうえ、地域に住む人たちから直接、聞いた情報も加味しながら、「最適解」を探っていく。
「オリジナルなデザインはたくさんの事例の引き出しからしか生まれません」
それが山崎の経験則だ。
小麦粉を練って焼いただけではふっくらとしたパンにならないのと同じで、アイディアにも「ふくらし粉」が必要になる。それが無理なくまじりあったとき、参加者のほとんどが、
「これは私の出したアイディアだ!」
と感じることができるという。
そこに、山崎の取り組むコミュニティデザインの新しさがある。
「課題を発見する力と課題を解決する力。そのふたつをかけあわせたところに、社会を変える力が生まれるのだと思います」
こうしてすぐれたアイディアが生まれても終わりではない。最後に、実現するための階段が待っている。=敬称略 (諸永裕司)
1973年生まれ。studio−L代表、京都造形芸術大学教授。地域が抱える課題を、地域に住む人々が解決するコミュニティデザインの第一人者。「海士町総合振興計画」「マルヤガーデンズ」でグッドデザイン賞を受賞。
著書に『コミュニティデザインの時代』(中央公論新社)、『ソーシャルデザイン・アトラス 社会が輝くプロジェクトとヒント』(鹿島出版会)、『コミュニティデザイン――人がつながるしくみをつくる』『つくること、つくらないこと』(以上、学芸出版社)、『コミュニティデザインの仕事』(BIOCITY50号記念増刊号)、『まちの幸福論』(NHK出版)、『地域を変えるデザイン』『海士人』(英治出版)など。
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