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南海トラフ沿いの巨大地震で、内閣府は29日、詳細な津波高や震度、被害などの想定を明らかにした。県内では伊方町に最大21メートルの津波が押し寄せ、最悪なら1万2千人の命が失われる。3月の1次報告より幅広い角度から突きつけられた被害の「新想定」に、県や自治体はどう対処しようとしているのか。
1次報告と比べると、市町ごとの最大震度(新居浜、東温市などが震度7)は変わらなかったが、最大津波高は上下した。推計の単位を50メートルメッシュから10メートルへと狭め、より細かい地形変化を反映して精度が上がったためという。
この結果、1次で12.6メートルだった伊方町が21メートルと県内最大の津波高に。8メートル余りの上昇幅は全国最大だ。同町のどこに21メートルの津波がくるのか国は明らかにしていないが、県が把握した限りでは伊方原発とは反対の宇和海側にある小梶谷鼻東岸(同町名取)で約20メートルと想定。この辺りは人家の少ない岬のような地点という。
県によると、主な地点の津波の高さは、伊方町役場8.5メートル、宇和島市役所7メートル、松山空港3.3メートル、今治市役所2.9メートル。想定される津波の平均の高さも自治体ごとに公表され、愛南町10メートル、八幡浜市8メートル、伊方町6メートルなど。
津波の予想到達時間も公表した。高さ1メートルの津波は愛南町で19分後、続いて宇和島市で29分後、伊方町にも46分後に達する。津波による浸水面積の想定も加わった。巻き込まれればほとんどの人が亡くなる1メートル以上の深さに宇和島市が710ヘクタール、愛南町は620ヘクタールが水没、松山市でも80ヘクタールが浸(つ)かるとした。
被害想定も初めて明らかにされた。いくつかの想定のうち、県内は九州地方が大きく被災する地震で被害が最大になる。この場合、揺れや火災で約19万2千棟が全壊、死者は鬼北町の人口とほぼ同じ約1万2千人に達する。内訳は建物倒壊で約7400人、津波で約4400人だ。
県が2001年度にまとめた独自の被害想定調査では、南海地震の死者約3千人の大半を建物倒壊によるものとし、津波の死者は2人。県は来年度まで2年がかりで、この被害想定の見直しを進めており、「国の被害想定を冷静に受け止め、専門家の意見を聴いて適切に反映させたい」(危機管理課)としている。
中村時広知事は「最悪が重なる『最大値』に惑わされず冷静に分析することが必要。緊急避難路の整備のほか、(他県と)どう連携するかも課題だ」と話した。
■伊方区長「とにかく高台に」
県内最大の津波が襲うとされた伊方町。約20メートルの津波が想定される名取地区の小梶谷鼻から直線距離で約3キロの三崎地区には、約440世帯、約1千人が暮らす。区長の中村亀三郎さん(64)は「とにかく高台に逃げるしかない」と話す。
地区内では、15メートル以上の高台にある寺など5カ所が避難場所だ。喫茶店を営む宮本徹さん(59)は「すぐ山があり高台に避難はしやすいが、高齢者らを誰が助けるのか、役割分担を普段から確認しておく必要がある」と指摘する。
町役場は6階建ての2階部分まで浸水する想定だ。総務課の大沼正一課長は「災害対策本部は3階以上に設置する。機能はマヒさせないようにしたいが、電算処理施設が2階にあり、被害が懸念される」。山下和彦町長は29日の会見で「宇和海沿岸はある程度の津波高を予想していた。避難対策を一部見直し、今回のデータをもとに追加対策を検討したい」と述べた。
一方、瀬戸内側にある伊方原発付近の津波の想定は、県によると最大約2.6メートル。原発は標高10メートルにあり、四国電力が最大の津波高を想定する中央構造線断層帯が動いた場合の高さ(約3.5〜4.3メートル)を下回る。四電は「冠水することはないと考えており、耐震化などの安全対策も進めている」としている。
■愛南町、津波最短19分で到達
高さ1メートルの津波が県内で最も早い19分で到達するとされた愛南町。町防災対策課の松田雅博課長は「第1波はもっと早い可能性がある。15分を目安とした避難を呼びかけていく」と話す。
最大津波高は1次報告とほぼ同じ17メートル。町は今年度中に、150カ所の津波一時避難所を全て標高20メートル以上とし、避難路も約50カ所整備する方針だ。
宇和島市は29分で高さ1メートルの津波がくるとされた。だが、従来の想定は高さ50センチ以上が50分。「揺れがおさまってから避難するとなると25分しかない」と市危機管理課の井関俊洋課長は危機感を募らせる。
3月に実施した市の津波避難訓練では、全体の17%の自治会が避難完了まで30分以上かかった。市は津波により浸水する面積も広く、4メートルの津波で市内3カ所の市街地はほとんどが浸水するという。井関課長は「訓練して避難時間を短縮するしかない」と話した。