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2012年1月19日9時21分

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川久保玲さんロングインタビュー ファッションで前に進む

写真:川久保玲(かわくぼ・れい)さん 拡大川久保玲(かわくぼ・れい)さん

写真:コムデギャルソン12年春夏パリ・コレクションの作品拡大コムデギャルソン12年春夏パリ・コレクションの作品

写真:コムデギャルソン12年春夏パリ・コレクションの作品拡大コムデギャルソン12年春夏パリ・コレクションの作品

写真:コムデギャルソン12年春夏パリ・コレクションの作品拡大コムデギャルソン12年春夏パリ・コレクションの作品

写真:コムデギャルソン12年春夏パリ・コレクションの作品拡大コムデギャルソン12年春夏パリ・コレクションの作品

写真:コムデギャルソン12年春夏パリ・コレクションの作品拡大コムデギャルソン12年春夏パリ・コレクションの作品

写真:コムデギャルソン12年春夏パリ・コレクションの作品=コレクション写真は全て大原広和氏撮影 拡大コムデギャルソン12年春夏パリ・コレクションの作品=コレクション写真は全て大原広和氏撮影

 世の中に漂う閉塞(へいそく)感、そして無力感。ファッション界のフロントランナーとして時代の最先端を鋭敏な感覚で嗅ぎ取り、あるときは時代の風潮にあらがってきた川久保玲。「鉄の女」とも称される彼女は「今」をどうとらえ、どのように前に進もうとしているのか。

コムデギャルソンの最新作、12年春夏コレクションフォトギャラリー

■新しさのもつ力 「なんとなく」の風潮に危惧

 ――出口のない不況が続き、世界中で格差批判も広がっています。高級ブランドを扱う業界には逆風ではないですか。

 「どの分野でも、商品の値段や製作費用をいとわず、新しいものを作り出そうとしている人はたくさんいます。そうした姿勢は、どんな状況であっても人が前に進むために必要なものだからです。私にとってはファッションこそが、そうした場なのです」

 「一般の人には高くて買えない服でも、新しい動きなり気持ちがみんなに伝わっていくことが大切です。作り手が世界を相手に一生懸命に頑張って発表し、それを誰かが着たり見たりすることで何かを感じて、その輪が広がっていけばいい。新しいというだけでウキウキして、そこから出発できる。ファッションとはそういうものです」

 ――川久保さんの真骨頂は前衛的なデザインです。でも、世の中の風潮は安定感や着やすさを求める傾向にありますね。

 「すぐ着られる簡単な服で満足している人が増えています。他の人と同じ服を着て、そのことに何の疑問も抱かない。服装のことだけではありません。最近の人は強いもの、格好いいもの、新しいものはなくても、今をなんとなく過ごせればいい、と。情熱や興奮、怒り、現状を打ち破ろうという意欲が弱まってきている。そんな風潮に危惧を感じています」

 「作り手の側も1番を目指さないとダメ。『2番じゃダメですか』と言い放った政治家がいました。けれども、結果は1番じゃなくても、少なくともその気持ちで臨まなければ。1番を目指すから世界のトップクラスにいることができる。日本は資源がないのだから、先端技術や文化などのソフトパワーで勝負するしかないのです」

 ――ファッションで個性を表現する必要はない、と考えている人が増えているようです。

 「ファッションの分野に限らず本当に個性を表現している人は、人とは違うものを着たり、違うように着こなしたりしているものです。そんな人は、トップモード(流行の最先端)の服でなくても、Tシャツ姿でも『この人は何か持っているな』という雰囲気を醸し出しています。本人の中身が新しければ、着ているものも新しく見える。ファッションとは、それを着ている人の中身も含めたものなのです。最近はグループのタレントが多くなって、みんな同じような服を着て、歌って踊っています。私には不思議です」

 ――同じといえば、大量生産された安価なファストファッションをどう思いますか。

 「いろんなニーズに合った様々なビジネスの形態はあってもいい。強力なクリエーション(創造性)があるものも、即席のファストファッションも、その中間もあるでしょう。でも、ファッションのすべてが民主化される必要はありません」

 ――「ファッションを民主化する」というのは、ファストファッションの代表格であるH&Mの基本姿勢ですね。

 「そういう傾向がどんどん進むと、平等化というか、多様性がなくなり一色になってしまう恐れがある。いいものは人の手や時間、努力が必要なので、どうしても高くなってしまう。効率だけを求めていると、将来的にはいいものが作れなくなってしまいます」

 ――そのH&Mと数年前にコラボレーションをしました。葛藤はなかったのですか。

 「全然なかった。たった2週間のイベントでしたが、私が手がける『コムデギャルソン』の服がマスマーケットにどうアピールできるかに興味があったので」

―「ここ5年ほどは業界はすっかり内向き。そんな流れの中で『どこかで見たことがあるようなものはダメ』と自分を懸命に追い込んできました」

―「本当は私だってそんなに強くはないですよ。ただ、強気のふりも時には必要です。」

川久保玲さんロングインタビュ―、完全版は朝日新聞デジタルで

■取材を終えて ファッション界では珍しく、写真の被写体になることを強く嫌い、また寡黙なデザイナーとして知られる。今回も作品と震災の関係については、言葉少なかった。その代わり、発表する作品はいつも全く違ったテーマや新しい手法で、世の中に強く訴えかける。見るものを戸惑わせ、深く考えさせ、心を揺さぶる。

 ぼろぼろにほつれた服を引っさげて、パリモードの伝統に風穴を開けたパリ・コレデビューから31年。その間ずっと反骨の精神を貫いてきた。サングラスを好み、近寄りがたい雰囲気を漂わせる。だがインタビューではサングラスを外し、「時には強気のふりをしているだけ」とは意外だった。

 大量消費社会が行き詰まりをみせ、既存の価値観が壊れる中、「ふり」をしながらでも自らを鼓舞して前に進むこと、それが新しい流れを生み出すためにきっと必要なのだろう。(編集委員・高橋牧子)

川久保玲(かわくぼ・れい)さん

 1942年、東京生まれ。慶応義塾大学文学部卒業後、大手繊維メーカー宣伝部に入社。69年、「少年のように」を意味する仏語「コムデギャルソン」の名称で婦人服の製造・販売を始め、73年に会社を設立。75年、東京で初のショーを開き、81年からパリ・コレクションに参加。同時にデビューした山本耀司さんと共に、オートクチュールを頂点とする西欧モードを揺るがす「黒の衝撃」と騒がれた。その穴のあいた黒い服は日本でも「カラス族」「ボロルック」として流行。その後もパッドを体につけた「こぶドレス」(96年)、縫製の代わりに粘着テープで接着したジャケット(00年)など次々と話題作を発表し、前衛派の旗手として不動の座を保つ。朝日賞、毎日ファッション大賞、英国王立芸術大学名誉博士号、仏国家功労章などを受けた。

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