鉢呂吉雄経済産業相(63)は10日夜、東京・赤坂の衆院議員宿舎で野田佳彦首相と会い、辞任を申し出て了承された。東京電力福島第一原発の周辺自治体を「死のまち」と表現し、福島視察後に記者団に「放射能をつけちゃうぞ」などと語ったことの責任をとった。内閣発足から9日目で原子力行政を所管する閣僚が辞任する事態になった。首相の任命責任が問われるのは必至で、厳しい政権運営を迫られそうだ。
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野田内閣は10日の持ち回り閣議で、藤村修官房長官を11日付で経産相臨時代理に充てることを決めた。13日の臨時国会召集までに正式な後任を決める方向だ。
鉢呂氏は10日夜、経産省で辞任会見を開いた。冒頭で「私の一連の発言で国民、福島県民のみなさまに多大の不信の念を抱かせ、心からおわび申し上げる」と陳謝。辞任理由については「記者会見で『死のまち』と表現したこと、視察後の非公式な記者さんとの立った場での懇談で不信を抱かせるような言動があったととらえられたこと、この二つだ」と説明した。
ただ、「放射能」発言をめぐる記者団とのやり取りについては「一つひとつに定かな記憶はない」と述べ、明言を避けた。首相と面会した際、「国民、福島県民に大きな不信の念を抱かせ、野田内閣の発足直後で大変迷惑をかけるので辞任の申し出をしたい」と訴え、首相から了承されたことも明らかにした。
鉢呂氏は福島視察後の8日夜、衆院議員宿舎に防災服のまま帰宅し、囲んだ記者団の1人に「放射能をつけちゃうぞ」などと語り、服の袖をなすりつけるようなしぐさをした。また、9日の記者会見で原発周辺の自治体を「死のまち」と表現し、同日中に発言を撤回して謝罪した。
鉢呂氏は10日昼の段階では、記者団に「今後とも頑張っていきたい」と語り、引き続き経産相の職務を続ける意向を示していた。ただ、一連の不適切な言動に対して政権内の受け止めは厳しく、結局は辞任に追い込まれた。
首相は10日午後、視察先の岩手県陸前高田市で記者団に「報道と本人がおっしゃっていることに違いがあるので、しっかりご説明いただきたい」と指摘。その際は進退問題に触れなかったが、最終的に鉢呂氏の辞意を受け入れた。
首相は震災復興と原発事故対応を「政権の最優先課題」に掲げているが、原子力行政を担う閣僚が辞任に追い込まれ、13日からの臨時国会で野党側から任命責任を追及されるのは必至。被災地の信頼回復を図ることも求められ、政権運営は厳しさを増しそうだ。
鉢呂氏は衆院北海道4区選出で当選7回。旧社会党などを経て民主党に移り、幹事長代理や国会対策委員長などを歴任した。横路孝弘衆院議長の側近で、岡田克也前幹事長にも近い。今月2日の野田内閣発足で初入閣した。