東日本大震災の津波で多くの建物が流失した中、1階部分が柱のみの「ピロティ式」の建物は津波に強かったことが、日本建築学会東北支部長の田中礼治・東北工業大学教授らの調査で分かった。建物の構造によって津波から身を守れるのでは、と期待されている。
田中教授らは5月、仙台市若林区荒浜の約1200棟の建物を調査。4メートル以上の高さの津波が襲った地区では建物913棟がほぼ壊滅する一方、4メートル未満の波だった地区では301棟のうち289棟は屋根や柱などが残っていた。
このため、4メートル未満の波が襲った地区では建物の構造によって損壊状況に違いが出ると判断。青森県八戸市から宮城県山元町までの33カ所で、4メートル未満だった地域の建物を調べたところ、1階部分が鉄筋コンクリート(RC)の柱のみとなっているピロティ式住宅と確認できた11棟は、すべて住居部分が完全に残っていた。
ピロティ式住宅は、限られた敷地で、駐車場確保を目的に建てる人が多い。津波に耐えられたことについて、田中教授は「外壁がなく、津波のエネルギーを受けなかった」と分析する。
同県気仙沼市のピロティ式住宅に住む主婦(59)は、高さ2.5メートルほどの津波に車や自転車を流されたが、自宅の被害はほとんどなかった。「津波で家の前を2軒の住宅が流れていった」と振り返る。
被災地では住宅の高台移転が検討されているが、田中教授は「家の構造次第で沿岸部も利用できる。早い復興にもつながるのでは」と指摘する。阪神大震災ではピロティ式のビルやマンションの倒壊が目立ったが、「鉄筋を増やして柱の強度を高めるほか、上部を木造にして軽くすれば揺れに強くなる。日本の高い建築技術を活用できる」と話している。(吉田拓史)