節句人形で有名なさいたま市岩槻区の人形職人らが、東日本大震災で肉親を亡くした被災者のために、故人をしのぶ「おもかげ雛(びな)」をつくっている。すでに約20体が完成し、希望した被災者に近く届ける。
街おこし活動に取り組むNPO法人ためぞうクラブの奥山吉寛・代表理事(62)が地元名産の人形を生かしながら、被災者を支援したいと思い立った。
奥山さんは昨年7月、妻のキチさん(当時61)を病気で亡くし、「忘れたくなくても、故人の記憶は薄れる。時がたち、忘れていくことへの罪悪感が切ない」と感じていたという。
製造や販売に携わる約160の業者が加盟する岩槻人形協同組合に協力を求めた。有志を募ったところ、「喜んでもらえるなら人形屋冥利(みょうり)につきる」と引き受ける職人が何人も名乗り出たという。
人形は3頭身のころんとした姿。写真や似顔絵を頼りに頭部の工程を1人の職人に任せる。「似すぎているとつらさが増す」という意見もあり、職人の感性で面影を残した人形を作ることにしたという。瞳や目を細めた表情、髪の色や長さなど故人の特徴を残す。
人形製造会社・いふじ人形店の井藤仁社長(70)は「表情には職人の心の内が出る。まさに職人の魂をこめた世界に一つだけの贈り物」と語る。
製作するのは1千体。材料費や送料は募金活動でまかない、希望者に無料で届ける。問い合わせは奥山さん(090・3919・9406)へ。(藤田絢子)