東日本大震災の被災地で、がれきから集めた「思い出の品」の展示を終える自治体が相次いでいる。持ち主捜しのために公共施設で始めたものの、従来の施設サービスを再開する必要に迫られているからだ。管理や返却を担ってきたボランティアからは「時期尚早」との声が出ている。
岩手県野田村では、ボランティアが水洗いした写真約4万枚を「生涯学習センター」で展示している。同センターは津波で浸水したため、8月末に一時閉鎖し、修復工事をして図書の貸し出しやサークル活動への開放といった本来業務を再開する計画だ。
同村は当初、展示写真を破棄する方針だったが、ボランティアの申し入れで撤回。ボランティアの一人、外舘真知子さん(31)は「いまは生きることで精いっぱいの人、思い出に向き合えない人もいる。息の長い活動が必要だ」として、別の場所で展示できるよう村側に申し入れている。
宮城県岩沼市も「市民体育センター」での写真や位牌(いはい)、ランドセルの展示を8月末で終える。住民から「サークル活動にセンターを使いたい」などの要望が相次いで寄せられていた。
同市は品々の保管は決めたが、再公開するかは未定。ボランティアの男性(30)は「いまも1日約20人が訪れ、初めて来たという人もいる」と公開の必要性を訴える。仙台市も7月に「市民センター」での展示を終了。新たな公開方法を検討する。
防災科学技術研究所(茨城県つくば市)主任研究員の長坂俊成さん(49)は「人も街も『思い出』が必要。がれき撤去や施設の建設だけでなく、人々の心を支え、伝統、文化を取り戻すことも復興だ」との考えから、震災前の写真と映像を集めて今後の街づくりに生かす試みを進めている。
長坂さんの助言で岩手県陸前高田市は、観光施設の駐車場にレンタルでユニットハウスを建て、その中でがれきから集めた写真などを展示している。国の緊急雇用対策事業を利用し、9月から臨時職員3人が管理する。同市は「持ち主捜しが、地元に雇用を生み、復興にもつながる」と期待を寄せる。(鈴村綾子)