被災3県で初の全県選挙となる岩手県知事選が25日告示された。被害の大きかった地域からは「住宅の高台移転」「水産業の再生」など生活再建へ向けた指導力を望む声が強い。「復興」を唱える候補者の訴えは、どう響くか。
「復興とか大きなスローガンではなく、身近なことをちゃんと実行できる人に期待したい」
津波で燃えている家が流れてきて自宅が延焼した大槌町の藤原キヨさん(56)は、住宅政策に注目する。いま暮らす仮設住宅団地の土地の一部は、2年契約で自ら町に提供したものだ。「仮設住宅がずっと残ると、自分の家を建てられなくなる。安心してみんなが仮設から出て行ける環境を作ってほしい」
自宅を流され借家に住む同町の船員黒沢恒夫さん(68)は、高台移転の議論が下火になったことが気がかりだ。「次の世代、その次の世代に津波がまた来るかも。将来への責任を果たす力が政治家に欲しい」
宮古市の磯鶏(そけい)漁港。津波に流された漁具倉庫を造り直していた漁業細越(ほそごし)守さん(75)は「(候補者に)この現場を見に来てほしい」と言う。港の防波堤は壊れたまま。がれきや転覆した船の撤去も進まず、残った船を出すのも勇気がいる。
「安心して漁をできる状態じゃない。カネをかけて仕事を再開するか、年を取った仲間は迷っている」
壊滅的な被害を受けた陸前高田市の自動車修理・販売業長谷川利昭さん(54)は政権与党とのパイプを基準に選ぶつもりだ。市街地にあった事務所と工場は流されたが、新しい工場の建設までこぎ着けた。「火力発電所を造るとか中央の元気な企業を誘致するとか、中央とのパイプを生かしてもらいたい。雇用を生み活気が出てくる」
「なぜ今知事選なのか」との思いをぬぐえない人もいる。支援活動で被災地に通う遠野市の自然環境団体代表千葉和(なごみ)さん(47)は、「誰もが生きることに精いっぱいで、落ち着いて考える余裕などない」と言う。知事選の話題は現地で出たことはない。「みんな“復興”と言うが、被災者のことをどれだけ本気に考えているかを基準に選びたい」