東京電力が東日本大震災前に、福島第一原発が想定を超える津波に見舞われる恐れがあると、経済産業省原子力安全・保安院に説明していたことがわかった。保安院の森山善範・原子力災害対策監が24日の会見で明らかにした。震災4日前には10メートルを超える可能性も文書で伝えていたが、対策には生かされなかった。東電の経営陣も把握していた。
保安院や東電によると、2002年の政府の地震調査研究推進本部の評価に基づき、大地震が三陸沖から房総沖にかけてのどこかで発生する想定で、東電がマグニチュード(M)8.3級の地震で福島第一、第二原発に来る津波の高さを08年春に試算した。
その結果、福島第一5、6号機の海側で10.2メートルで、1〜4号機も8.4〜9.3メートルとなり、いずれも最大5.7メートルの設計での想定を上回った。場所によって15.7メートルまで津波が駆け上がると見積もられた。
福島第一原発では海面からの高さ4メートルの所に冷却に必要な海水ポンプ、高さ10メートルの所に原子炉建屋などがある。今回の震災の津波の高さは海岸付近で13メートルで、建屋付近では11.5〜15.5メートルに達した。
試算は東電が今年3月7日、保安院に文書で説明。保安院の担当室長が、早急に報告書を提出し、設備面の対策を取るよう口頭で求めたという。
また09年9月にも保安院の担当職員が、福島第一で津波が6メートルを超える可能性があると東電から口頭で説明を受けていたが、東電に対策の指示は出していなかったという。森山対策監は会見で「津波の問題について評価や対策が不十分だったことは誠に申し訳ない」と述べた。
東電は08年6月にこの試算を経営陣に報告していた。しかし、福島沖では参考になる過去の地震記録がなく、三陸沖で起こる地震をそのままあてはめたことから「あくまで仮定に基づく試算」として対策は取らなかった。震災後も政府の事故調査・検証委員会の調査対象になるため、公表は考えなかったという。
東電は06年の国際会議でも、設計の想定を超える津波が来る確率が「50年以内に約10%」とし、10メートルを超える確率も約1%あると発表していた。(西川迅、佐々木英輔)