京都の「五山送り火」で、東日本大震災の津波になぎ倒された岩手県陸前高田市の松でできた薪(まき)を燃やす計画について、京都市は12日、中止すると発表した。市が取り寄せた薪500本の放射能検査をした結果、放射性セシウムが検出されたとし、「計画は、放射性物質が含まれていないことを前提にしていた。断念せざるを得ない」と説明した。
計画をめぐっては、放射能への不安の声が一部の市民から寄せられ、送り火の主催者である大文字保存会が被災松の受け入れを中止。各地から苦情が殺到したため京都市が別の薪を取り寄せ、大文字をはじめとする五山の各保存会が16日の送り火で燃やすことで事態の収拾を図ろうとした。送り火そのものは予定通り行われる。
薪は、市の要請で協力した福井県のボランティア団体などが500本を集め、11日に京都市役所に運んだ後、市が民間の検査機関に依頼。検査は、すべての薪の表皮と内側を一部削り取り、それぞれ一塊にして調べた。その結果、表皮のみ1キログラムあたり1130ベクレルの放射性セシウムが検出されたという。
環境省は、焼却処分が可能な放射線濃度の基準を示していない。記者会見した門川大作市長は、中止の理由について「もともと送り火で燃やすには放射性物質が出ないことを前提にしていた」と説明。放射能に詳しい地元の大学教授に聞くと、「燃やしていいか判断できない」との回答だったという。
市によると、薪は現地で長時間にわたって野ざらしになっていて、泥をかぶった状態だった。詳しい保存状態について、市は「ボランティア団体に任せていたので把握していない」と説明した。今後、市の施設で薪を保管し、処分するという。
15日に市役所前で行う平和イベントで薪を燃やす計画も中止とする。
市は、五山送り火の各保存会と、陸前高田市に中止の決定を連絡した。門川市長が陸前高田市に謝罪に行くと申し出たが、陸前高田市側から断られたという。
門川市長は会見で「残念な結果。被災地のみなさんに心からおわびする」と謝罪。「今回のことが被災地の産品に対する誤解につながらないよう、理解してほしい」と話した。(岡田匠)
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〈これまでの経緯〉
7月上旬 岩手県陸前高田市の高田松原の松を薪にして大文字送り火で燃やす計画が明らかに。その後「放射性物質は大丈夫か」などの声が京都市や大文字保存会に寄せられる
7月下旬 京都市の要請で保存会は薪を検査し、その後に放射性物質が検出されないことを確認
8月4日 保存会で意見がまとまらず、計画中止を決定
6日 保存会理事長が現地で薪を集めた関係者に謝罪。薪に書かれた被災者のメッセージを護摩木に書き写して大文字でたくことに
8日 当初の薪が陸前高田市でお盆の迎え火として燃やされる。この日までに中止への批判や抗議が300件以上京都市に殺到
9日 京都五山送り火連合会が、京都市が現地から取り寄せる別の薪の受け入れを決める
11日 大文字保存会が別の薪を燃やすことを決める。五山そろって燃やすことに
12日 京都市が薪から放射性物質が検出されたとして、計画の中止を発表