放射性セシウムに汚染された稲わらを食べた牛の肉が流通した問題で、農林水産省は5日、畜産農家や流通業者などに対する支援策を発表した。汚染わらを食べた17道県産の約3500頭の肉については流通在庫をすべて買い上げるなどの内容となっている。
見込んでいる費用は総額約860億円で、国産牛肉の在庫約1万3千トンを買い上げ処分した2001年のBSE(牛海綿状脳症)の約300億円を大きく上回る。ただ、今回は「立て替え払い」との考えで、国は、出荷できた牛の販売収入や東京電力による賠償があった後には返還を求める予定だ。
農水省は福島県産牛が出荷停止になった7月下旬、セシウムの濃度が国の基準値(1キロあたり500ベクレル)を超えた肉だけを買い上げる「緊急対策」を打ち出したが、産地や業界団体からは拡充を求める声が相次いでいた。出荷停止の範囲が宮城、岩手、栃木の3県に広がったことから、「新たな対策が必要」(鹿野道彦農水相)と判断した。
支援策には他に、流通した出荷停止4県の肉の保管経費を負担する▽出荷停止で出荷適期を逃した牛は買い上げる▽牛の全頭検査と全戸検査を決めた13県の農家に出荷再開までのつなぎ資金として1頭あたり5万円を支給する▽再開後に売却価格が低ければ差額を補う――といった項目を盛り込んだ。
緊急対策は、国の関与を小さくし、食肉の業界団体が金融機関から対策費を借り、利子だけを国が補給する形だった。しかし、金融機関が慎重姿勢を示すなど素早い対応をとる見通しが立たず、国の全面的な関与に切り替えた。(井上恵一朗)