九州電力が、2009年に「博多座」(福岡市博多区)で公演されたミュージカル「ミス・サイゴン」の観劇券2枚を、伊藤祐一郎・鹿児島県知事に無償で渡し、知事夫妻がこの舞台を鑑賞していたことが分かった。公演前から話題となりチケットの入手が難しいと言われるなか、九州電力の鹿児島支店長(当時)が知事の意向を聞き、便宜を図ったという。
当時、鹿児島県では、川内(せんだい)原子力発電所3号機の増設計画が浮上し、県議会で計画の是非をめぐる議論が展開されていた。知事は昨年11月、計画に同意したが、東京電力の福島第一原発の事故を受けて、増設手続きを保留している。
「ミス・サイゴン」は、ベトナム戦争時の米兵とベトナム人少女の愛の悲劇を描いた作品。博多座開業10周年にあたる09年1〜3月に公演し、大がかりな舞台演出などで話題となった。
九州電力によると、同社はこのミュージカルの協賛企業で「博多座」の大株主でもあるため、観劇券を特別に入手できる立場にあったという。九電の鹿児島支店長が県内の会合で知事と懇談した際、知事から、このミュージカルに関心があると伝えられ、この支店長が後日、持参したという。知事は同年3月、妻と博多座で観劇した。
観劇料金は当時、舞台に最も近いA席で1万6000円で特B席で1万2500円に設定されていた。当日の知事夫妻の座席は特定できていない。
伊藤知事は朝日新聞の取材に対し、事実関係を認めたうえで、「実物大のヘリコプターが舞台に降りるという大きなセットに興味があった。企業としての文化支援活動の中での一般的なおつきあいと考えている」と話した。
九電は「日頃からお世話になっているとの思いから渡した」と答えた。ただ、「お世話」の中身は答えなかった。増設問題との関連は、「たまたまチケットがあってお渡ししただけ。便宜供与するとの認識は無かった」と否定した。
伊藤知事は総務省出身。04年に初当選し、現在、2期目。(松田史朗、小西宏幸)