福島、宮城など4県の肉用牛の出荷停止で、関東の食肉市場への入荷が激減している。東京やさいたま、横浜の食肉市場では、肉牛の取扱量は例年の半分以下に。関係者は「このままの状態が続けば、食卓にも影響が出かねない」と警鐘を鳴らす。
全国の肉用牛が集まる日本最大の食肉市場「東京食肉市場」(東京都港区)。栃木県産の牛の出荷停止が決まった2日の解体頭数は164頭にとどまった。例年の400頭弱の半分にも満たない。7月14日は317頭だったのが、5日後の19日には252頭、21日になると168頭と解体頭数が落ち込んだ。
さいたま食肉市場(さいたま市)でも例年1日70〜80頭を解体するが、8月2日は12頭のみ。市場の担当者は「東京は全国から牛が集まるが、うちは東北・関東が主力なので死活問題だ」と嘆く。横浜市食肉公社では例年1日60〜70頭だが、2日は19頭。最近は半分以下に落ち込み、牛を解体しない日もあるという。
7月8日に福島県南相馬市の畜産農家の牛から基準を超えるセシウムを検出。16日にはえさの稲わらの汚染拡大が発覚し、22日には岩手や宮城、栃木県産の牛も基準を超え、各県で出荷自粛が相次いだ。19日に福島県産の牛が出荷停止になったのを皮切りに28日に宮城、1日岩手、2日栃木と、出荷停止は計4県に広がっており、今後も解体頭数の低迷が続きそうだ。
食肉は畜産農家などから食肉市場などで解体・処理された後、卸会社が競りを実施。落札した業者がより細かく食肉処理してスーパーなどに販売する。
大手スーパーや焼き肉チェーン店では、「西日本産などの肉牛を増やして対応中」(イオン)、「国産牛や和牛はもともとメニューの約3分の1。輸入牛の通常の在庫で対応できている」(牛角を展開するレインズインターナショナル)など、入荷先の変更などでやりくりしているという。
一方、食肉市場の経営も手数料収入の激減で打撃を受けている。食肉市場では、牛1頭の入荷で解体料金や検査料、売買手数料、牛を預かる料金など様々な手数料が入る。
東京食肉市場の担当者は「出荷停止だけでなく、全頭検査で牛の出荷の停滞が続けば、食卓への肉の供給にも影響が出る可能性がある」と話す。
農畜産業振興機構の畜産需給担当者は「夏場はバーベキューなどで需要が増える。牛の出荷停止でスーパーや外食産業への影響が本格化するのはこれから。今後和牛が手に入りにくくなるだろう」と話す。
福島県や栃木県は県内での食肉処理能力が格段に低い。福島県は全出荷数の11.6%(2009年、厚生労働省まとめ)、栃木県は18%(同)。東京などの食肉市場は処理能力に余裕はあるが、検査能力には限界がある。市場関係者は「解体はできるが、全頭検査には対応できない」という。
厚労省は、こうした「ミスマッチ」を解消させるため、出荷元や県外の受け入れ先の協議を後押しする方針だ。(沢伸也)