東北電力の原発新規立地計画がある福島県南相馬市は、この計画に関連する「電源三法交付金」の受け取りを、今年度から辞退する方針を固めた。原発の見返りに自治体財政を潤してきた交付金だが、東京電力福島第一原発の事故で、自治体の判断にも変化が生じている。交付金よりも住民の安全を優先させた被災自治体の判断は、全国に広がる可能性がある。
電源三法交付金は、発電所の立地計画や建設が進む自治体に配分される。南相馬市が辞退するのは、この交付金の一つで、建設計画のある自治体に交付される「電源立地等初期対策交付金」。東北電の計画では、同市と浪江町の境で、浪江・小高原発の2021年度運転開始をめざしている。南相馬市は1986年度から、交付金を受けている。昨年度は約5千万円で、これまでの累計は約5億円にのぼる。
交付金の対象自治体は例年5月と10月に、国に交付申請する。南相馬市は、東日本大震災の影響で5月分を申請していないが、10月も申請しない方針だ。
桜井勝延市長は、朝日新聞の取材に「今回の原発事故を受け、将来的にも住民を脅かす原発を認めない。交付金を申請しないことで、新規立地に反対する市の立場を明確にできる」と説明している。
南相馬市は東京電力福島第一原発の関連でも、近隣自治体として年5500万円の交付を受けている。市企画経営課は「新規立地分の交付金辞退を先行させ、東電分の辞退については今後検討する」としている。今年度の市の一般会計当初予算は約277億円なので、交付金辞退による財政への影響は小さいとみられる。
南相馬市は東北、東京両電力の株主。6月の両社の株主総会では、脱原発の株主提案に賛成した。福島県も知事や民主、自民両県連などが「脱原発」を掲げ、原発に依存しない地域づくりをめざしている。
電源三法交付金をめぐっては、九州電力川内原発の3号機増設計画について、鹿児島県川内市(現薩摩川内市)が、00年の計画発表当時に知事が容認しなかったため、最初から申請しなかった例がある。ただ、南相馬市のように途中での辞退は「少なくとも近年は無い」(資源エネルギー庁)という。(木村尚貴)
◇
<電源立地等初期対策交付金> 原発に限らず、発電所の建設を地域で円滑に進めるための電源開発促進税法など「電源三法」に基づく「電源立地地域対策交付金」の一部。電力会社が発電所の建設が可能かどうかの調査を始めた時点から運転開始までが、交付の対象期間。国の2010年度予算では電源立地交付金1097億円のうち55億円を初期対策交付金が占める。