安愚楽牧場の本社事務所=1日午後、栃木県那須塩原市、金子淳撮影
安愚楽牧場東京支店は鍵が閉まり、電気も消えていた=1日午後4時31分、東京都中央区日本橋3丁目、橋本弦撮影
出資者から繁殖用の黒毛和牛の飼育の委託を受け、生まれた子牛を買い取る「和牛オーナー制度」を運営する安愚楽(あぐら)牧場(本社・栃木県)が経営悪化を理由に、全国約3万人のオーナーやえさの仕入れ先などへの支払いを止めていることがわかった。東京電力福島第一原発の事故の影響で、牛肉の消費や価格が急落したことが原因としている。
同社は、東京都内の弁護士事務所に資産・負債状況の調査を依頼した。債権者にあてた弁護士事務所の1日付の通知書によると、1カ月以内に調査を終え、対応を決める方針。東京商工リサーチによると、3月時点の負債額は619億円。
通知書によると、同社は宮崎県で昨年に発生した口蹄疫(こうていえき)を皮切りに、福島原発の事故に伴う牛の放牧制限や牛肉の放射性セシウム汚染で打撃を受けた。さらに牛肉の消費の落ち込みで経営状況が一気に悪化したという。
同社の役員は1日、朝日新聞の取材に「原発事故後にオーナー契約の解除が急増した。和牛の価格下落が著しく、子牛の販売額も半値以下になった」と説明。「東電への損害賠償請求についても弁護士と相談中」と話した。
同社は1981年設立。繁殖牛のオーナーを募集し、生まれた子牛を買い取る仕組みを同年から始めた。契約終了時には繁殖牛も買い取り、出資者によると年5〜7%の利回りがあったという。全国40カ所の直営牧場と338カ所の預託牧場で14万頭を超す黒毛和牛を飼育しており、昨年度は1027億円を売り上げたという。