2011年6月4日15時9分
法務省は、東日本大震災で行方不明になっている人の家族らが死亡届を出す場合、戸籍法上の手続きをふだんより簡略化する方針を固めた。受理した後、できるだけ早く「法律上の死亡」を認めることで、家族が遺産の相続や生命保険の受け取りをしやすくするのが目的。震災から3カ月となる今月11日ごろから実施する予定だ。
人が死亡すると、通常は家族らが医師の死亡診断書などを添え、死亡届を市町村の窓口に提出する。遺体が見つからない場合は医師が書類を作れないため、家族らが死亡の事実を証明するための書面を独自に用意しなくてはいけない。
この書面に定められた形式はなく、死亡時の状況や目撃者の話などを詳しく求められることが多い。それらの内容を踏まえて最終的に法務局が死亡とするかどうかを判断する。
東日本大震災の行方不明者は3日現在で約8300人(警察庁調べ)にのぼる。家族らが亡くなったと考えて死亡届を出そうとしても、津波被害で目撃者などを見つけるのは難しい状況だ。
死亡届が出せないと、法律上は生存していることになり、遺産の相続ができない。生命保険会社も、戸籍に死亡と記載されていることを支払いの条件にしており、保険金が受け取れない状況が続く。
こうした不利益を解消するため、法務省は定型の書式をつくり、被災時の状況や滞在場所などに答えるだけで書類を完成できるようにする。職場で被災した場合には、その職場で働いていたことを示す書面の提出を求める程度とし、必要最低限にとどめる考えだ。
また、行方不明者を死亡とするかどうかの判断は、法務局ではなく、地元の被害状況をより把握している市町村でできるようにし、かかる時間を早める。受理の基準を緩めるのではなく、あくまで手続きの迅速化を図るための措置という。
今回のような災害で法的に死亡を認定するには、死亡届のほかにも、同じ戸籍法上の「認定死亡」や、民法上の「失踪宣告」という制度がある。
認定死亡とは、警察などが捜査をした上で市町村に報告する仕組みだが、今回は対象人数が多く、警察も捜索などで手が回らない事情がある。また、失踪宣告は少なくとも1年経過しないと請求できない。民法の改正には慎重さが求められるため、法務省は今回、できるだけ早く実行できる死亡届の簡略化で対応することにした。
阪神大震災では、自宅などで死亡したケースが多く、行方不明者が少なかったことから、こうした措置は取られなかった。(田村剛)