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2011年6月3日
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漫画偏愛主義

二匹目のドジョウ?アラフォー恋愛劇 姉の結婚(西炯子)

文:松尾慈子

表紙:姉の結婚[作]西炯子(小学館)拡大姉の結婚[作]西炯子(小学館)「姉の結婚」を楽天で検索

イラスト:(C)西炯子/小学館拡大(C)西炯子/小学館

イラスト:(C)西炯子/小学館拡大(C)西炯子/小学館

 アラフォー世代の女性と壮年男性との恋愛を描いた「娚(おとこ)の一生」で大ブレイクした西。20年来の大ファンの私としては、ようやく世間が彼女の魅力に気づいたかと鼻息を荒くしている。その彼女の最新作が本作である。ネタバレありなのでご注意を。

    ◇

 一読して……デジャブ〜? 主人公・岩谷ヨリは40歳を目前にした独身女性。過去に傷を持ち、このまま穏やかに孤独な日常に埋没していこうと思っていると、思わぬ男性から浴びるように愛情を注がれるようになり、日常が一変していく。

 こう書くと、まるで「娚の一生」の説明ではないか。本作の違いは、男性が実は妻帯者であることくらいか。

 確かに、アラフォー世代の恋愛をストレートに描いた女性向け漫画は少なくて、西の大ヒットは「大金脈を掘り当てた!」って感じだったのかもしれない。孤独なアラフォー女性が、ちょっとワケありの男性から熱烈に求愛され、孤独に閉ざしていた心が溶かされていく。その様子は、まさしく私世代の女性にカタルシスを与えてくれる。

 しかし、西の創作能力にはまだまだいろいろな引き出しがあったはずだ! 自己のアイデンティティーに悩むセンシティブ漫画から、恋愛を描く正統派少女漫画、ナンセンスギャグなどなど、西ならなんでも描けたはずだ。それがなんでまた、二匹目のドジョウを狙うような、似た設定で。これは西が冒険をいやがったか? それとも編集者か? 前作「ふわふわポリス」が当たらなかったからか? 大ヒットを放った後だからこそ、いつものように、読者の裏をかくスゴ技で、私たちを驚かせてほしかったのだが。掲載誌が女性誌「flowers」だから仕方がないのか。

 とはいえ、さすが西だけあって、読ませる作品に仕上がっている。多くは語られないものの、過去の傷をひきずるヨリが「よしんば 愛されるのも もうごめんだわ」とひとりごちる表情には深い孤独が感じられる。「未婚の人間が周囲に気をつかわせるのもわかっているのよ」。せりふのひとつひとつに、真実味が感じられる。

 時折挟まれるギャグも、まさしくアラフォー向け。第4章のサブタイトルに「岩谷(※と書いて『しむら』とルビがある)!うしろ!うしろ!」なんて、ザ・ドリフターズのギャグは40代以上でないと分からないよ〜。

 さて、そうはいっても引き出しの多い西のこと。他誌の連載では、相変わらず多彩なカラーの作品を発表し、読者を魅了し続けている。本作も魅力的な作品であることは間違いない。これからも引き続きファンであることを続けたい。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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