2011年5月28日14時49分
震災で離ればなれになったペットが戻ってきた。思いがけない再会が「家族」を癒やし、支えている。
■娘・孫失った痛み、癒してくれる
岩手県陸前高田市の菅原広世(ひろせ)さん(70)とトシ子さん(68)は最近、津波で犠牲になった一人娘の一家が飼っていたオス犬「コロ」と暮らし始めた。不明となったコロは震災から28日後、保健所で見つかった。
コロは6歳。亡くなった孫の高城隆世(りゅうせい)君(13)の7歳の誕生プレゼントだった。娘恵子さん(44)は自宅から車で避難中に津波に巻き込まれた。友人宅にいた隆世君は母を心配して自宅に戻った。ふたりはともに遺体で発見された。
土台だけが残った自宅跡にコロをつないでいた小屋はない。恵子さんの夫郁雄さん(52)が諦めの気持ちで保健所に足を運んだら、やせこけたコロがいた。目が合うと鼻をくんくん鳴らした。首に散歩用の赤いリードがついていた。震災数日後、隆世君の遺体が見つかった川の近くで保護されたとわかった。「家に戻った隆世がつけかえ、一緒に逃げようとしたのだろう」と郁雄さん。
郁雄さんは無事だった長男翔平君(18)と仙台市に移ることになった。コロを高台の自宅で被災を免れた菅原さん夫妻に預けた。
それから約1カ月半、やせこけて足を引きずっていたコロの傷は徐々に癒えた。娘と孫を失った喪失感は埋めがたく、夫妻は時折涙ぐむが、コロにじゃれつかれると笑みがこぼれる。「家族は6人が4人になったけど、落ち込んでばかりはいられない」。トシ子さんは甘えるコロのおなかをなでた。(編集委員・大久保真紀)
■3本脚の猫「ノラ」も奇跡の生還
岩手県大槌町の川崎房子さん(88)宅から震災の日に飛び出した「ノラ」。メスの三毛猫は約50日後に戻ってきた。過去に瀕死(ひんし)の重傷で後ろ右脚を切断したことがあり、川崎さんは「2度目の奇跡」を喜んでいる。
ノラは3年前、独り暮らしの川崎さん宅に後ろ脚をひきずって入ってきた。車にひかれたらしい。安楽死をと動物病院を訪ねたら、看護師から「じーっとおばちゃんを見てますよ」と言われ、治療を願い出た。獣医師は「交通事故だと普通は生きられない。奇跡の猫」と言った。
3月11日。自宅は1階天井近くまで津波に襲われた。ノラは行方不明で、避難所に逃れた川崎さんは「野良猫のせいか人を信じない。3本脚だし今度は助からない」とあきらめた。
自宅に戻った5月初め、片づけを手伝ってくれていた娘が縁の下から顔を出す猫を見つけた。警戒しているのか、いくら呼んでも出てこない。翌日、川崎さんの足をなめるのが好きだったと思い出し、縁の下に入れてみた。成功した。
目立ったけがはなかった。「やっぱり奇跡の猫」。えさをやると一心不乱に食べた。ただ、警戒心は以前にも増して強くなり、他人が来るとベッドの下に隠れる。「怖い目にあったんだから仕方ない」(東野真和)