2011年5月25日16時51分
東京電力福島第一原子力発電所の事故による影響で、東京都交通局のバス事業が今年度、赤字に転落する可能性が出ている。都は東電の大株主として毎年26億円近い配当を受けていたが、巨額の賠償を控えて2011年3月期の配当はゼロに。今後も無配が続けば、バス運賃の値上げに追い込まれかねない。
都交通局のルーツは、戦前に東京市電(後の都電)を手がけていた東京市電気局。電気供給も事業の柱だったが、戦時中の国家総動員法に基づく配電統制令で手放した。その事業などをまとめて1951年に発足したのが東電だ。
こうした経緯から、都は東電の設立当初から大量の株を取得している。東電の10年12月期の四半期報告書によると、都は発行済み株式の3.15%、4267万株を保有。信託銀行2社、大手生保2社に次ぐ第5位の大株主だ。「投資目的ではなく、重要なインフラ企業として70年代まで割当増資に応じてきた」(同局)という。
ここ10年ほどの東電株による配当利益は交通事業会計に入り、年に約25億6千万円。都電の廃止路線を引き継いだ都営バス部門の収入になっている。都営バスはこの10年、ほぼ黒字。09年度決算の黒字額は7億7300万円だが、東電の配当がなければ20億円近い赤字だった計算だ。
東電が今月20日に発表した11年3月期連結決算では1兆円を超す純損失を計上し、配当は見送られた。当面は原発事故の巨額賠償の支払いなどで赤字は避けられそうになく、無配が続きそうだ。「バス事業はこれまで以上に経営合理化が必要になる。バスの赤字が続けば、経営努力だけで吸収しきれるのかどうか……」と都幹部。今後の運賃値上げには言葉を濁す。
資産計上している東電株の簿価は取得額で170億円。「現段階で東電株を手放すことは考えていない」(同局)というが、原発事故前の3月10日の終値換算で918億円(1株2153円)だった時価は、24日の終値で142億円(同333円)に目減りしている。(菅野雄介)