2011年5月20日5時2分
東京電力に融資している大手銀行は19日、東電の要請に応じて、金利を優遇し、融資を継続する方向で検討に入った。福島第一原子力発電所の事故で「投資不適格」の寸前だが、優良企業に貸し出すのと同じ年0.5%ほどの超低金利を続ける。
菅政権では、枝野幸男官房長官らが、銀行もこれまでの融資を棒引きする「債権放棄」に応じるべきだとの意向を示唆している。銀行側は債権放棄すれば多額の損失を被るため、金利優遇などの支援姿勢を見せて理解を求める狙いだ。
東電はこれまでに、最低水準の年0.5%ほどの金利で計約4兆円の融資を受けている。運転資金と原発事故対応などに使われており、今後も借り換えで確保する必要がある。
しかし、原発事故後に信用格付けが急落して投資不適格に近づいており、「融資するなら金利は年10%以上」(大手行幹部)という声が出ていた。経営難に陥った日本航空が2009年に受けた融資の金利は10%ほどで、東電は当時の日航とほぼ同じ信用力との見方が多い。
高金利だと返済費用がかさみ、財務を圧迫する。このため、東電は近く、主に融資を受けている三井住友、三菱東京UFJ、みずほコーポレートなど大手行に対し、これまで同様0.5%ほどで借り換えに応じるよう要請する予定で、各行は応じる方向だ。
今後5年ほどで、これまでのすべての融資の返済期限が来る。大手行幹部は「4兆円をすべて借り換えた場合、単純計算すると本来支払うべき金利が年4千億円近く浮く」と話し、事実上の金融支援にあたると強調する。
一部の銀行は要請があれば、新たな融資にも応じる方針。東電は今夏の電力不足に対応するため、発電機や燃料調達に資金が必要になっているためだ。
関係者によると、菅政権が13日に東電の損害賠償を支援する枠組みを決めた際、政府関係者から東電に対し、銀行に求める支援策として「超低金利で融資継続」が示された。東電はこれに沿って支援要請する方針を銀行に伝えた。枝野官房長官らは債権放棄などを促しているが、今回はその指示はなかったという。
このため、東電は今回、債権放棄を要請しない。損失を被る銀行が借り換えに一切応じなくなる可能性も高いからだ。米格付け会社が「一部でも債権放棄されれば、東電を最低ランクまで格下げせざるを得ない」としており、格付けの低さから社債を発行して資金調達することもできず、資金繰りに困る恐れがあるとの判断もあるとみられる。(上栗崇)
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■銀行の貸出金利 銀行が企業などにお金を貸し出すときに決める金利。貸出期間や、貸出先企業の信用度合いによって決まる。銀行は倒産リスクや財務の健全性などに応じて「格付け」をしている。健全な「正常先」から経営難が深刻な「破綻(はたん)懸念先」「実質破綻先」などの分類がされている。銀行が貸したお金を確実に返せそうだと見込まれる健全な企業ほど低い金利になり、経営難で倒産などの可能性が見込まれる企業は高い金利を払わないと銀行から借りられない。