2011年5月11日19時54分
宮城県塩釜市の松島湾に浮かぶ桂島は、津波で大半の住宅や漁具が流された。島を支えたノリやカキの養殖は再開できるのか。漁師たちは、震災直前に島に移り住んだ青年の発案に沿って、復興への道を歩み始めた。
桂島は人口約300人。65歳以上が過半数を占める。震災では高さ10メートル超の津波で住宅120戸のうち71戸が損壊し、ノリの加工場やカキのイカダ、ロープなど作業道具の大半が流失した。住民は養殖を再開するかどうか悩んでいた。
「一口オーナー制度をやってみませんか」。提案したのは小泉善雅さん(36)。インターネットやツイッターで1口1万円の支援金を募って漁業の資材購入に充て、収穫できるようになれば現物で出資者に還元する、と説明した。
小泉さんは震災直前の3月6日に島の漁協への加入が認められたばかりだった。塩釜市出身で東京の木材商社などに勤め、5年前にUターン。松島町や東松島市の漁師に弟子入りして漁師を目指していた。
桂島を所管する県漁業協同組合塩釜市浦戸支所の運営委員長・千葉真澄さん(69)に加入できるよう頼んだのは今年1月。「いつまでいるか分からない」「どんな人なのか」と否定的な組合員を、島の後継者不在を心配した千葉さんが「この島を終わりにするのか」と説得した。そして島外初の組合員となった。
小泉さんの提案について、住民は最初は半信半疑だった。しかし、口コミやテレビで取り組みが知られると、問い合わせが全国から殺到。すでに3300口以上が集まった。島の漁師は海に沈んだ種ガキの引き上げに乗り出し、被害を免れたノリ乾燥施設は共同で使うことにした。廃業を決めたのは数人にとどまった。
「彼のアイデアが住民を元気づけた」。千葉さんは笑顔を見せる。小泉さんは「多くの人に協力いただき、大変ありがたい。でもこれだけで満足したら、お涙ちょうだいの域を出ないし、漁業も発展しない」と気を引き締める。(上田学)