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雇用調整助成金、原発30キロ圏は対象外 経営者ら憤り

2011年5月10日10時15分

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図:被災地での雇用調整助成金の活用拡大被災地での雇用調整助成金の活用

 福島第一原子力発電所の30キロ圏内で、国の指示を受けて休業せざるをえなくなった企業が、従業員の休業手当の一部を国が助成する「雇用調整助成金」をもらうことができず、不公平感を募らせている。厚生労働省が助成対象を「経済上の理由」による休業に限り、原発周辺のように法令で制限を受けた場合を除いているためだ。

 雇用調整助成金は、不況など経済上の理由で仕事が減った企業に雇用を維持させるため、国が休業手当の最大8割を助成する制度。福島第一原発から北に25キロ余の福島県南相馬市原町区の社会保険労務士、草野英夫さんのもとには、「なぜ助成金が出ないのか」という相談が相次いでいる。

 近くの建設会社社長は「10人の従業員を何とかしてやりたいが、結局クビにするしかない」と憤った。震災後の津波で発電所の点検工事が止まり休ませざるを得ない。そこでハローワークで助成金を申請しようとしたが、政府が4月21日まで屋内退避を指示していた原発30キロ圏内に会社があることを理由に断られた。

 同じ原町区の土木会社社長は「本社を30キロ圏外に移せば下りるのかと聞いたら下りると言われた。こんなバカな話はない」と怒る。

 助成金は景気悪化で生産量などが一定程度減少した企業が対象。厚労省は、震災で直接的に生産設備が壊れた場合や、法令による屋内退避、避難指示で休業した場合は経済上の理由に当たらず対象外との見解だ。

 助成金の代わりとして、一時的な休職でも失業手当がもらえる雇用保険の特例の利用を求めている。だが、長年勤めた従業員でも失業給付を受けると勤続期間がリセットされ、復職後に短期で失業すると給付日数が短くなる。このため、「従業員の不利益になる」と敬遠する経営者もいる。

 また、国の原子力損害賠償紛争審査会は、4月28日に公表した東京電力の原発事故に伴う損害賠償の1次指針で、政府指示により仕事を失った企業の減収分や労働者の給与を賠償対象と明示した。厚労省には「この地域は助成金よりも損害賠償で対応すべきだ」という考えがある。しかし、経営者たちは「いつ、いくら出るか分からない賠償金を当てにできない」と、厚労省の見解に反発している。

 さらに事態を複雑にしたのは、政府が4月22日に南相馬市などの20〜30キロ圏を屋内退避から「緊急時避難準備区域」に変えたことだ。準備区域では事業が制限されないため、厚労省は一転、「22日以後に事業活動が縮小した場合は助成対象」と説明し始めた。一方で、警戒区域となった20キロ圏は引き続き対象外だ。

 この問題について細川律夫厚労相は、先月末の衆院予算委員会で「できるだけ柔軟に解釈して助成金が適用されるようにしたい」と述べたが、厚労省は「(20キロ圏などに)対象を広げることはない」(担当者)との説明を続けている。

     ◇

 〈雇用調整助成金〉 景気悪化時の解雇を防ぐため、国が企業に従業員の休業手当の一部を補助する制度。事業主が納める保険料のみで運営され、助成率は中小企業が5分の4、大企業は3分の2。通常は最近3カ月の生産量などが前年比5%以上減った場合などに支給される。厚生労働省は今回、被災後1カ月の生産量などが5%以上減る見込みなら認めるなど、被災地の企業の支給条件を大幅に緩和した。ただ、事業縮小の原因は「経済上の理由」に限られる。

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