2011年5月8日17時1分
被災した三陸沿岸の水道が、津波の「塩害」に悩まされている。取水する井戸の水に、地表に残った海水の塩分がしみこむためだ。復旧には最長で7月までかかるとみられる地域もある。塩辛くても洗濯などには使えるため、「飲まないで」と断りながら給水を始める自治体も現れた。
約3500戸が断水する岩手県陸前高田市。市役所仮庁舎近くの給水所で、伊藤光男さん(57)が三つの20リットル入りのポリタンクに水を入れ、リヤカーに載せていた。「家は高台にあって大丈夫だったけど、飲み水、洗濯、風呂が大変」。勤務先だった水産加工場が被災し、普段はその片づけに通う。帰宅する夕方には給水が終わるため、出勤途中に車で立ち寄っている。
同市の水源地は三つ。いずれも深さ数メートルの井戸から地下水をくみ上げる浅井戸方式だ。河川から取水する場合と比べて大規模な施設は不要だが、地表の影響を受けやすい。そのため今回、津波による「塩害」が直撃した。
海岸線から約4キロの「竹駒第一水源」は市内の約8割にあたる約7千戸に供給していた。市水道事業所の職員が震災数日後に確認に行くと、井戸は真っ黒な泥やがれきで埋まっていた。がれきを取り除き、水で高圧洗浄したが、塩分濃度を示す塩化物イオンは基準値の3倍以上だった。
市では「川から取水する代替施設を建てよう」との意見も出たが、大規模工事が必要なため、復旧は遅れる。とりあえず、発電機を設置してポンプで水源地にたまった塩分を含んだ水を川に流すことにした。
いったんは基準以下になったが、雨が降るたびに周囲から塩分がしみ出して基準値を超える。送水管の無事を確認すれば給水できる状態なのに、大坂幹夫・市水道事業所長は「復旧は7月ごろまでかかる」との見通しを示す。
三陸沿岸部では井戸を水源にする市町村は多い。岩手県内では全取水量のうち約3割を頼っている。
5千戸近くが断水している宮城県南三陸町では、主要な4井戸のうち、一つは井戸の設備そのものが流失し、三つは塩分濃度が下がらないため飲料水としての給水を再開できない。
一方、岩手県釜石市では、塩分濃度が基準値を超えている井戸水を、生活用水に限定して約300戸に供給する。沢水が少ない地区では水道水に代わるものがないためだ。南三陸町でも一部地域で同様だ。健康に深刻な影響を与えるレベルではないが、両市町は「絶対に飲まないで」と呼びかけながら供給している。
厚生労働省によると、当初は19都道県で約216万戸が断水。震災後2カ月近い6日現在でも、岩手県2万3千戸や宮城県4万4千戸など計約7万4千戸の断水が続いている。
陸前高田市での復旧を手伝う大阪市水道局の松田仁秀さん(48)は「直下型の阪神大震災に襲われた神戸では管の破損がほとんどだったが、今回はまったく違う。とにかく一日も早く水を出したい」と話した。(湯地正裕、牛尾梓)