2011年4月27日15時1分
東日本大震災から1カ月半、ようやく再開した漁を海底のがれきが阻んでいる。20キロ以上沖合での底引き網漁でも、家財などが引き揚げられ、網を傷つける。沈んでいるがれきの規模は分からず、撤去のめどは立っていない。
岩手県釜石市沖でスケトウダラ漁を終えた75トンの沖合底引き網漁船(トロール船)が26日午後、同県の宮古漁港の岸壁に接岸した。魚を市場に下ろした後、10人ほどの漁師が網にかかったがれきを船から下ろし、港の一角に積み上げた。布団や一斗缶、車のシートもある。
この日、出漁した13隻のうち数隻の網にがれきがかかった。船長の男性(63)は破れた網の修復をしながら、「私が生きている間は海はきれいにならないんじゃないかな」と諦め顔だ。
宮古漁協によると、岸から約24キロ離れた沖でも、網にがれきがかかることがある。漁師は魚群探知機でがれきをよけながら操業しているが、それでも引っかける。がれきの影響で、水揚げ減は避けられないという。
同漁協の得田博・市場総務部長は「がれきを取り除くことは漁協では不可能だ。今後は、海中のがれきに浮きで印をつける作業も検討しなければならない」と話す。
岸辺近くで行われる養殖や定置網漁では、事態はより深刻だ。ワカメや昆布の養殖が盛んな宮古市の田老町漁協は、がれきの処理に頭を悩ませる。約600あった養殖施設は大津波で完全に破壊された。海中のがれきを処分しなければ、養殖の再開は難しい。小林昭栄組合長は「養殖再開のメドは立たない」と嘆く。
海底にはどのくらいがれきが埋まっているのか。岩手県水産技術センターは11日から、県の漁業調査船で、魚群探知機を使って海中の浮遊物や堆積(たいせき)しているがれきの現状調査を始めた。
釜石湾沖の陸から約300メートル、水深50メートルのワカメ養殖場の海底に、家の屋根とみられる高さ約3メートルの三角形のがれきを確認。別の湾でも岸から数キロ離れた定置網漁場で高さ数メートルのがれきが多数堆積していることが分かった。ただ、底引き網漁を行うような水深数百メートルの地点では正確な調査は困難で、今後、実際に底引き網を使っての調査も検討する。
調査を担当する同センターの後藤友明主任専門研究員は「がれきの中に船や車があると燃料油の流出による養殖などへの影響も心配だ。深い場所では、がれきの撤去は極めて困難。漁で網に入り込んでしまったものを漁港に持ち帰るのも総量を減らす上では重要だ」と話す。
岩手県は国からの撤去費用の助成が決まり次第、5月下旬にも漁場のがれき撤去を開始する予定。県漁港漁村課は「1年以内の撤去を目標にしたいが、やってみないと分からない部分が多い。終了時期は予想もつかない」と話している。(杉山正、古賀大己)