2011年4月23日19時12分
福島第一原発から約33キロにある福島県田村市滝根町の市営「星の村天文台」。東日本大震災で天体望遠鏡が壊れ、休館に追い込まれた。アマチュア天文家で台長の大野裕明さん(62)は「天文台を復興のシンボルに」と、全国の天文ファンに復旧への財政的な支援を呼びかけている。
阿武隈高原の山間にある星の村天文台は1991年に開館した。澄んだ空気と光害の少なさから、首都圏の天文ファンが足を運ぶ天体観測スポットとして知られる。開館と同時に、福島市の呉服店主だった大野さんを台長に迎えて話題を呼んだ。
大震災があった3月11日、大野さんは直前まで天体観測室で太陽を撮影していた。昼食のため部屋から離れていた時、揺れが来た。約5トンある反射望遠鏡(口径65センチ)の主軸が折れ、大野さんが座っていたパイプイスを押しつぶして床を突き破った。
修理には約1年、費用は7千万円かかる。田村市では多くの市民が今も避難生活を送っており、避難者支援や風評被害対策が最優先課題。望遠鏡の修理までは手が回らないのが現状だ。大野さんも「家族や家を失い、何年も地元に帰ることが出来ない被災者の支援が最優先」と考える。
大野さんは次男で副台長の智裕さん(27)と2人で館内の片づけなどに当たる一方、県内の避難所を回り、持ち込んだ天体望遠鏡で観察会を開いて、子どもたちに星のすばらしさを伝え続けている。
念頭にあるのは、1995年の阪神大震災で被害を受けた兵庫県明石市立天文科学館が3年2カ月後の98年3月に再開し、「復興のシンボル」と受け止められたことだ。「天体望遠鏡できれいな星を見ることは心の支えになる。福島第一原発から最も近い天文台の再開で地域の復興を」。大野さんはそう語る。(石松恒)