2011年4月21日3時0分
東京電力福島第一原子力発電所の事故で、損害賠償の枠組みの政府原案の全容が20日、分かった。東電は政府管理のもとで巨額の賠償金を支払う仕組みだ。官民で新設する「機構」で賠償を支え、公的資金も投入する。
原案によると、東京電力は存続し、被害者に賠償金を支払う主体となる。国有化はしない。
東電はまず、自己資金を賠償にあてる。東電は原子力損害賠償法(原賠法)に基づき、政府と保険のような契約を結んでいる。この契約分の1200億〜2400億円も賠償の原資となる。
ただ、それらの資金では賠償額が不足する見通し。賠償で債務超過に陥りそうになった場合、政府に「特別援助」を求める。援助するかどうかは、閣僚で構成する新設の「判定会議」が認定。東電は政府の支援を受けている間、事業計画が認可制となり、経営が政府の管理下に置かれる。
特別援助の決定を受けると、新設の機構が東電に資金支援する。設立には新法が必要。原発を持つ電力各社が出す負担金でつくる。この負担金も東電の賠償に回る。必要に応じて東電の発行する優先株を機構が引き受け、資本注入する。
政府が発行する交付国債も機構の資金源。交付国債は必要な時にだけ現金化できる国債だ。東電や電力各社の負担だけで賠償金がまかなえれば、財政負担は生じないが、賠償の規模は数兆円に膨らむとみられ、交付国債の現金化は避けられないとみられる。
東電は、利益から設備投資資金などを除いた余裕分を機構に返済していく。機構はこの返済分を国庫に返納するので、すべて国に返済されると最終的な財政負担は発生しない仕組みだ。
一方、機構には、福島第一原発事故の被害者に対する賠償だけでなく、将来起こるかもしれない電力各社の原発事故による賠償に備える役割も持たせている。
原案の枠組みは、国の負担をなるべく減らす方向で設計されている。賠償額が膨らめば、東電だけでなく、原発のない沖縄を除く地域で電気料金が上がる可能性がある。東電以外の電力会社の資金を今回の賠償にあてることには、各社の株主の理解が必要になる。
また、株主への対応が原案には明示されておらず、株主が政府管理下でどうなるかも焦点になりそうだ。
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〈交付国債〉 国が現金を払う代わりに発行する債券。金額が見通せないときなどに活用され、受け取った側が必要な時にその都度現金化できる。利子が付かず、発行時に全額予算計上する必要がないため、当面の国の財政悪化を防ぐことができる利点がある。国際機関への出資や、金融機関の破綻(はたん)処理を進める預金保険機構で活用されてきた。発行目的が限られるため、原則、他人に譲渡することは禁じられている。