2011年4月20日12時32分
教室前の廊下で卓球部員が壁に球を打ち付け、その奥ではハンドボール部の約20人が猛ダッシュ。校舎2階はバスケットボール部員が腰をかがめて守備練習、3階はバドミントン部員がシャトルを打ち合う――。
福島市の福島第一中学校の放課後。阿武隈川沿いにある校庭は今、桜が満開だが、生徒の姿はない。
福島第一原発事故で放出された放射性物質を考慮し、福島県内ではほぼ全域の学校で屋外活動が控えられてきた。新学期になっても、国が学校の屋外活動の放射線量基準を示さず、市町村教委や各校に判断が任されてきたためだ。
「校庭に足跡すらない異様な光景。この状態がいつまで続くのか」。福島第一中の鈴木昭雄校長(59)は嘆く。ハンドボール部の手塚彩乃さん(13)も「廊下を走ると足の裏が痛い。夏は暑いし、やる気がなくなりそう」と浮かない顔だ。
保護者の不安も強い。中1と小5の娘がいる福島市の女性(49)は「原発から離れているとはいえ、ずっと放射線量が多くて心配」と顔をしかめる。
福島市は第一原発から65キロほど離れているが、市教委は市内の小中学校に屋外活動を見合わせるとともに、生徒に登下校時はマスクと帽子を着用するよう呼びかけた。
5月の運動会は軒並み中止になり、夏のプールや秋の桃収穫の体験実習まで危ぶまれている。第一原発から約100キロ離れた会津若松市教委も、マスクと帽子の着用を呼びかけている。
県教委の幹部は「中には過剰と感じる対応もある。だが、学校現場が混乱したのは、新学期までに基準を示さなかった文部科学省の責任だ」と批判する。
文科省学校健康教育課は「基準策定は原子力安全委員会など専門家の意見を踏まえた検討に時間がかかった」と釈明。「今後は福島県の学校現場に混乱を招かないようにする」としている。(関田航、川口敦子、小林誠一)