2011年4月20日3時7分
役場ごと埼玉県に集団避難した福島第一原発の地元、福島県双葉町が揺れている。原発事故の収束に相当な期間が見込まれるなか、町民から「役場はせめて福島県内に戻すべきだ」との声も出始めた。町は難しい判断を迫られている。
19日、埼玉県加須(かぞ)市で双葉町議会の全員協議会が開かれ、町議11人全員が集まった。井戸川克隆町長(64)に今後の方針を聞くためだ。
清川泰弘議長(69)によると、井戸川町長は仮設住宅の建設状況や就労の状況を見ながら考えると答え、時期については明言を避けたという。
1カ月前。町は役場ごと約200キロ離れた埼玉へ移転した。「あちこちに避難していた町民を1カ所に集めたかった」からだ。だが、6900人の町民のうち、埼玉についてきたのは約2割の1400人。残り8割は新潟などの県外か福島県内に避難した。
埼玉に来た町民は、加須市の旧県立高校で避難生活を送る。小中学生計170人は同市内の学校に転入。周辺で仕事を見つけた町民もいる。町議も11人のうち8人がいる。
東京電力は17日、原発事故収束に6〜9カ月かかると発表した。いま、町議らの最大の関心は「いつ戻るのか」だ。町議の間でも意見が分かれる。
「すぐにでも戻すべきだ」という菅野博紀町議(40)は1週間前、福島県内に残る町民の意見を聞こうと避難所を12カ所まわった。「よく来てくれた」。涙で歓迎された。近くに寄る辺のなくなった町民らは声をそろえた。「役場は福島に戻ってきてほしい」
菅野町議は19日の協議会で訴えた。「町に捨てられた、と思っている町民が多いんです」
双葉町周辺のほかの7町村が役場機能を移したのはいずれも福島県内だ。移転先の近くにホテルや旅館を避難所として確保。県は、仮設住宅も近くにつくり、コミュニティーを維持するというストーリーを描く。
双葉町は福島県内の避難者のために、仮設住宅建設を申請している。だが、埼玉と福島との距離が、町民らの不安を募らせる。
埼玉にいる町民からも「あくまで埼玉は一時避難先。福島に戻った方がいい」(40歳男性)との声も出始めた。
だが、町は、簡単に役場を戻せない現実がある。原発に依存してきた雇用や産業は壊滅している。「震災と原発事故に見舞われた福島より首都圏の方が仕事は多いはず」だからだ。
実際、福島労働局の担当者は「双葉地方の方々の雇用を、福島県内で吸収するのは極めて厳しい」と話す。一方で、埼玉県が加須市にいる双葉町民を対象にしたアンケートでは就職のあっせんを「希望する」188人のうち、大多数の145人が「加須市での就労」を希望。市に寄せられた求人数は92件322人分(11日時点)に上る。
町長は「首都圏で生計を立て、休日に双葉町に帰る2拠点居住」も視野に入れる。
震災後に職を失い、福島県内の避難所に妻と子どもの家族3人で暮らす本林雅弥さん(32)も厳しさを実感する一人だ。長女は避難先に近い小学校に入学。福島での求人を探したが、資格が必要な土木系の仕事が目立ち、希望するサービス業の仕事は少なかった。「見つからなければ県外への移住も考えている」
分断された町は一つになるのか。移転を決断した町長自身も悩んでいる。「大変難しい判断。多くの町民の意見を聞き、考えていきたい」(釆沢嘉高、古庄暢、編集委員・神田誠司)