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再出発へのプレーボール 生徒3割転校の石巻・雄勝中

2011年4月19日12時55分

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写真:飯野川中との親善試合で全力疾走する雄勝中学校野球部の選手=14日、宮城県石巻市、長島一浩撮影拡大飯野川中との親善試合で全力疾走する雄勝中学校野球部の選手=14日、宮城県石巻市、長島一浩撮影

写真:試合前、円陣を組む雄勝中学校野球部の選手たち=14日、宮城県石巻市、長島一浩撮影拡大試合前、円陣を組む雄勝中学校野球部の選手たち=14日、宮城県石巻市、長島一浩撮影

写真:試合前のあいさつで笑顔を見せる雄勝中学校野球部の選手たち=14日、宮城県石巻市、長島一浩撮影拡大試合前のあいさつで笑顔を見せる雄勝中学校野球部の選手たち=14日、宮城県石巻市、長島一浩撮影

 離ればなれになる前にもう一度、みんなで野球がしたい――。津波で町全体が壊滅状態となった宮城県石巻市の雄勝(おがつ)町。家や仕事を失って町を出る人が多く、雄勝中学校の生徒も3割が転校を決めた。突然の別れを迎えた野球部が強豪校の胸を借りて、避難所のグラウンドで試合に挑んだ。誓い合ったのは「どんな時も絶対にあきらめない」。

 「ワンヒットで1点」

 「打てるぞ、打てるぞ」

 14日、雄勝町から15キロ以上離れた飯野川中学校のグラウンドに、雄勝中の生徒や保護者の声援が響いた。

 同町から来た多くの人が避難生活を送る飯野川中の野球部との親善試合。スコア0対14と大敗ムード濃厚の中で迎えた最終回5回の攻撃は2死三塁。ベンチから熊谷雅幸先生(45)が「笑え」と声をかけると、緊張した表情で打席にいた門間遥君(14)の顔がほころんだ。

 門間君は津波で家を失った。転校先の学校がある埼玉県への引っ越しは3日後。「自分で試合を終わりにしたくない」。しかし空振り三振……のはずが、捕手がボールをこぼして振り逃げでセーフ。続く山下純嗣君(14)のヒットで、何とか1点をもぎとった。

 あの日、雄勝中を津波が襲ったのは卒業式の2時間後だった。3階建ての校舎は壊滅。帰宅していた生徒は全員無事だったが、周囲の町もがれきと化した。多くの生徒が家を失い、ちりぢりになって避難所に身を寄せた。

 「学校はどうなるのか。もし近くで再開されるなら、町に残りたい」「子どもがどうしても雄中に行きたいと言っている」。保護者からの問い合わせに、佐藤淳一校長(50)は「学校が早く子どもの居場所をつくってあげられれば、町を復興させるきっかけになる」と考えた。

 がれきの中から校旗を掘り出し、避難所の飯野川中学校の一室に掲げて職員室にした。学校は、4月21日に飯野川中に近い石巻北高校飯野川校に間借りして、再開することが決まった。町内の避難所をスクールバスでめぐり、最長で1時間かけて生徒たちを運ぶ。

 しかし、全校生徒79人で迎えるはずだった新学期は、50人ほどになる見込みだ。佐藤校長はできる限り転校先の学校に出向き、頭を下げる。「ずっと雄勝で育った子ですから。外では不安なこともいっぱいなのでどうか助けてやってください」

 10人だった野球部も、3人が転校する。「生徒たちを元気づけるために、野球の試合がしたい」と申し出た雄勝中に、地区の強豪校の飯野川中が胸を貸してくれた。

 試合前、熊谷先生は「打てなくてもエラーしても、絶対にあきらめることだけはすんな」と激励した。

 公式戦では一度も勝てなかった雄勝中野球部。野球道具もユニホームも全部、津波に流され、みんなばらばらのジーンズやジャージー姿。支援物資の中にあった不ぞろいの帽子を分け合い、道具は飯野川中に貸してもらった。部員2人が来られず、足りないメンバーはサッカー部からの応援。

 試合は大敗したが、仙台市の学校へ転校する佐藤太郎君(14)の母の恵さん(40)は「今日はみんな、いつもより元気だったから安心した。なんだか、地震の前にタイムスリップしたようでした」。

 雄勝中は13日、職員会議を開いて「自主、敬愛、健康」だった30年来の校訓を「たくましく生きよ」に変えた。町を離れる生徒たちへのメッセージも込めている。(平井良和)

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