2011年4月19日12時9分
岩手県大船渡市の漁師、入沢隆夫さん(71)は19日、津波で陸地に流された漁船を岸壁へと運び出す作業を始めた。「海に戻り、船とともに働くことが俺の復興」と意欲を燃やす。
午前9時。海から約1キロの市街地に打ち上げられた長さ約20メートル、幅約4メートルの漁船、第8恵比寿丸(9.1トン)が、クレーンでつり上げられた。「下ろすぞー」と声をかけながら慎重にトレーラーに積み込み、岸壁までゆっくりと運ばれた。
漁師歴56年。地震は、地元に春を告げるイサダ漁の最盛期に起きた。イサダは、主に釣りや養殖魚の餌として使われている小エビに似たオキアミの一種。
津波は自宅を流し、漁船を係留していた直径約3.3センチのロープも引きちぎった。船を求めて捜し回っていた入沢さんの目に、がれきの山とともに恵比寿丸の姿が飛び込んできた。
入沢さんが所属する綾里(りょうり)漁協によると、漁船約600隻のうち約3分の2が流失・修復不可能で、恵比寿丸は生き残った数少ない船の一つだ。解体を勧める声もあったが、「船は家族のようなもの。過酷な津波を生き抜いたのに壊すのは忍びない」。
船内に入った海水をポンプで抜き、この日を迎えた。「一日も早く、漁を再開したい」。修理後、海に浮かべる予定だ。(多田晃子)