2011年4月17日11時1分
「息子がいなくなったのは自分のせいだ」と自らを責める母。津波のショックで水を恐れ、みそ汁も飲めない女性――。東日本大震災で心に傷を負った住民をケアしながら、その思いをビデオで撮り続けている心療内科医がいる。
宮城県名取市の東北国際クリニック院長桑山紀彦さん(48)。山形県内の勤務医だったが2009年に独立した。クリニックから約2キロ離れた閖上(ゆりあげ)地区は津波で多数の犠牲者を出し、生き残った人の多くは避難所暮らしを続けている。
74歳の女性は、行方不明の長男(46)を思い、嘆く。自分を「捜しに行く」と言い残して長男は行方不明になったと周囲から聞いた。「私のせいや」。発生1週間後、女性は診察室で涙を流し、言葉を詰まらせた。3週目には「遺体安置所見に行ったの。新聞、毎日開いて、息子の名前がないか見てるんだけど」「魚にでも食べられたんだろうか。(遺体が)出れば踏ん切りがつく」と話すようになった。
桑山さんは「薬、少し強くしてみますね。話し相手になるから、また会いましょう」と見送った。
様々な患者が訪れる。津波にのまれかけたところで助けられた女性(74)は「口の中に泥水が入ってアップアップする夢をみる」「みそ汁がおっかなくて飲めないの。波立っているように見えて」。避難所から久々に公衆浴場に行ったが、湯船に足を入れることができなかった。
桑山さんによると、つらい思いを語ることで断片的な記憶がつながり、気持ちが整理されることも多い。心の傷や心的外傷後ストレス障害(PTSD)の予防・回復につながるという。
外来や避難所への巡回診療で話を聞くうち、未曽有の災害の状況と人々の記憶を残し、多くの人に見てもらいたいと思うようになった。患者に了解を得て、ビデオカメラを回し始めた。
NPO法人「地球のステージ」の代表理事でもある。海外の被災地や紛争地で医療支援をしながら人々の生活や風景をビデオに撮ってきた。その映像を流しながら、歌と語りで構成するコンサートを国内外で上演する活動もしている。
桑山さんは「証言する人だけでなく、撮りためた映像を見る人も、自分の記憶を整理できる。同時に克服していく人の強さも伝えたい」。今回も将来的には記録を公開したいと言い、証言してくれる人を募っている。問い合わせは地球のステージ(022・738・9220)へ。(辻外記子)