2011年4月16日1時59分
ひびの入った漁船を修理する重茂漁協所属の漁師小野吉男さん(右)=12日、岩手県宮古市重茂、樫山晃生撮影
重茂漁協が開いた組合員全員協議会。詰めかけた漁師たちは真剣に聴き入っていた=9日午後2時26分、岩手県宮古市重茂、樫山晃生撮影
壊滅的な被害を受けた東北沿岸部の水産業を再興しようと、各地の漁協が立ち上がった。キーワードは「漁船シェアリング」。被害を免れた数少ない漁船などを共同利用することで危機を乗り越えようとしている。
「誰も経験したことのない未曽有の震災。一致団結して乗り切るしかない」
アワビや養殖ワカメで知られる岩手県宮古市の重茂(おもえ)漁協(組合員数約580人)。9日の組合員全員協議会で、伊藤隆一組合長はそう語り、集まった約400人に漁船や養殖施設の共同利用案を説明した。参加者は拍手で賛同した。
漁協所属の漁船は814隻のうち800隻が被災。国や自治体の支援策が決まらないなか、共同利用は「多くの漁師が無収入になる危機的状況」(伊藤組合長)を乗り越えるために考えた案だった。
主にアワビやウニ漁、ワカメの養殖などに使う小型漁船を共用する。今回の津波で沖に逃げた漁船や、修理すれば使えるようになる漁船など約50隻を集めてすべて組合が所有。4地区に漁船を振り分け、収益は地区ごとに分け合うという仕組みだ。
また、新たに購入する船はすべて漁協が所有する。全員に1隻行き渡る数が確保できた後、個人に引き渡す。新船の代金は2013年度以降の水揚げ代金から10%を天引きするため、漁船を失って再出発を目指す漁師たちは借金をする必要がない。
小野吉男さん(69)は、老朽化して廃船扱いにしていた小型漁船1隻を共同利用に使ってもらうつもりだ。震災では、漁船2隻と養殖施設7台を失った。孫と2人で年収1千万円近くを稼いできたが、どこまで収入が減るのか、見通しが立たない。それでも「こういうときこそ助け合い。迷いはない」と話す。
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自立復興の動きは各地の漁協に広がっている。
宮古市の田老町漁協(組合員数約700人)は、漁船の共同利用に加え、収穫に1年近くかかるワカメやコンブの養殖業者に月給制の方針を打ち出した。具体的には、数人で養殖班を作って共同経営をし、収入が得られるようになるまでの間、漁協が月給を支払う。収穫したワカメは自家加工して漁協に出荷され、漁協はその収益から前払いした月給分を回収していく。
同県大船渡市の越喜来(おきらい)漁協(組合員数約570人)も、小型漁船を3人1組で共同利用する構想を抱いている。中嶋久吉組合長は「これまでの個人での漁業から組織的な漁業への転換を図るしか再興の道はない」と言う。
岩手県によると、今回の地震と津波で県内111漁港のうち105港が被害を受けた。養殖施設はほぼ壊滅状態で、1万4千隻以上あった漁船も9割近くが被災。水産業全体の被害額は1千億円を超えた。
岩手県内の24漁協が加入する県漁連は、各漁協の窓口となって新たな漁船の購入希望隻数を聞き、一括購入する方向で検討している。佐々木安彦振興課長は「三陸全体の漁業の早期再建にはお互いに励まし合い、支え合うことが必要だ」と話す。(長野佑介、多田晃子、贄川俊)