2011年4月13日7時59分
出発する被災者たちとバスの中で握手する亀山紘市長(手前左)=12日午後、宮城県石巻市、根岸写す
避難所に貼られた2次避難についてのチラシ。「最初の1週間は元の避難所に戻れる」とある=12日午後1時13分、宮城県石巻市、諫山卓弥撮影
もう少し環境のよい場所に移ってほしい、と宮城県が取り組む集団避難が進まない。震災から1カ月が過ぎたいまも約1万5千人が避難生活を送る宮城県石巻市で12日、県外への集団避難がようやく始まった。だが、第1陣は、わずか8人。市は「気に入らなければ1週間で戻れる」とアピールするが、人々の腰は重い。
石巻市内の避難所の一つ、法務局庁舎で12日午後、男女8人が笑顔でバスに乗りこんだ。「連絡すっから」。家族らが声をかけ合う。見送りに駆けつけた亀山紘市長はバスに乗り込み、「疲れを取ってくださいね」と一人ひとりと握手した。行き先は秋田市の温泉宿。宮城県内の自治体として初めて実現した県外への集団避難だ。
先月14日に約32万人いた県内の避難者は、12日夜までに5万人を割った。だが集団避難は難航している。
県内で最も多い避難者を抱える石巻市。避難所の人々の疲労は極限に達し、衛生環境も良くない。学校の新学期も迫る。仮設住宅は今月下旬に137戸できるが、約8千世帯が申請しており、倍率は50倍以上。とても追いつかない状況だ。
市は3月から4月にかけて避難者にアンケートを実施。「市外への2次避難」について聞いたところ、4186世帯のうち約7割の2847世帯が「興味なし」と答えた。
これを受けて、市は「条件が合わなければ帰れる」と強調した「石巻方式」をアピール。チラシで「出発から最初の1週間は元の避難所に戻ることができる」とうたい、職員が避難所を説明に回った。
12日午後の時点で市外への避難を申請したのは約120世帯約220人。今後、希望に応じて県内外のホテルや公営住宅など行き先を調整する。「避難すると市の情報が来なくなるかも」「家や家財道具は置いたままでいいのか」。そんな不安を抱える人は多く、順調に希望者が増えるかは不透明だ。
亀山市長は、避難者の不安を取り除こうとこう訴える。「避難者へも市の情報をしっかり流すようにする。お試しで短期間でもリフレッシュしてもらい、健康を回復してほしい」
石巻市に次いで多い約7300人が避難する宮城県南三陸町でも町外への集団避難を進めているが、間際に避難をキャンセルする人が相次いでいる。
町によると、3月下旬の1次募集では、希望者1120人に対し、内陸の同県栗原、登米、大崎の3市と加美町の避難先が割り当てられた。だが、4月上旬に実際に避難したのは822人にとどまった。第1希望ではない行き先を指定されたり、通学や通勤の都合を考えたりした人がキャンセルしたとみている。
2次募集は11日から始まり、12日午前までの申し込みは72世帯。これでも町担当者は「予想より多い」という。1次募集で避難した人たちからは、町に残る避難者に「(集団避難先の)今の生活の方がいい」との声が寄せられているという。「こういう話が広まり、少しでも避難を決意する人が増えてもらえれば」と担当者は話す。
故郷を離れたがらない人たちの中には、いまだに家族が行方不明の人も多い。石巻市内の避難所にいる自営業鈴木宏朗さん(39)は父親の行方が分からないままだ。「安心できるところで生活したいとは思うけれど、今は離れられない」(根岸拓朗、伊藤宏樹)