2011年4月11日22時43分
日本銀行は11日、4月の地域経済報告(さくらリポート)をまとめた。東日本大震災の被害を受けた東北地方は「経済的にも甚大な被害」、関東・甲信越地方は「厳しい状況」と指摘した。両地域を含め、全国9地域のうち7地域の景気判断を1月より引き下げた。
地域経済報告は四半期ごとに公表している。震災後初めてとなる今回は近畿と四国を除く地域で景気判断が引き下げられた。
■消費も観光も金融機関も
報告をまとめた日銀の支店長会議で、白川方明(まさあき)総裁は「生産面を中心に、下押し圧力の強い状態にある」と語り、生産活動が止まって景気が悪化することへの警戒感を示した。
東北は前回1月には景気が回復途上にあるとしていたが、今回は「甚大な被害」と指摘した。「極めて異例の表現」(日銀幹部)で、現地の厳しい経済情勢を示している。
11日夕に記者会見した日銀仙台支店の福田一雄支店長は「沿岸部では住宅、工場、道路などすべてが消失し、生産や営業の基盤の多くが失われた」と説明した。さらに「再建の意思のある企業もその見通しが立たない」と語った。
地域経済報告によると、東北全体でも、ガソリン不足などで買い物に行くこともままならず、消費に深刻な影響が生じている。観光の落ち込みも大きい。
地域の金融機関の被害も大きい。現地にある金融機関は936店舗のうち128店舗が一時、営業ができなくなった。いまも仮店舗などで59店舗が再開したのみという。
ただ、内陸部では「急ピッチで復旧が進んでいる」と言い、これが明るい材料とも言える。沿岸部より内陸部の方が製造拠点が多く、物流拠点でもある。このため、日銀は「(内陸部の生産や物流は)時間の問題はあるが、確実に復旧してくる」とみている。
■「消費者マインドの慎重化」も影響
震災の影響は他の地域にも広がっている。
関東甲信越では、一部の沿岸部で東北と同じような被害が出たのに加え、「震災後に広がった消費者マインドの慎重化」なども景気を押し下げているという。
直接の被害がない地域でも景気判断が引き下げられたのは、サプライチェーン(供給網)が絶たれたことが大きい。とりわけ自動車産業への影響が大きい。
トヨタ自動車の本社がある東海では「足もとで自動車関連を中心に(生産が)大幅に減少しているとみられる」と指摘した。自動車工場がある中国や九州・沖縄でも、自動車部品が調達しにくくなり、「(工場の)操業度が大幅に低下している」という。
雇用にも悪影響が出ており、「震災に伴う生産活動の減少で、一部の非正規雇用者は自宅待機を余儀なくされている」(関東甲信越)といった動きがある。
四国ではまだ震災の影響があまり出ておらず、「観光客は震災の影響もあって減少しているが、(地域全体の景気は)持ち直しの動きがみられる」という。
今後について、白川総裁は11日の支店長会議のあいさつで、「生産活動が回復していくにつれ、緩やかな回復経路に戻る」という従来の見方を変えなかった。だが、震災の影響がどのように広がるかを正確に見極めるにはまだ時間がかかりそうだ。(畑中徹、上栗崇)