2011年4月8日
気温が上がり、桜も咲いてやっと春らしくなり、少しずつ活気が出てきました。しかし今年の桜はなぜか寂しげで、気のせいかその色も例年より薄く感じるのは私だけでしょうか?
この東日本の大災害は、地震、津波、原発事故の三重苦。行方不明者の捜索や復興にも大きな支障となり、さらに悲しむべきは、この原発による放射能汚染の脅威が、被災地の現実を覆い隠し、復興への取り組みがどうしても二の次のようになってしまうことです。
しかも全国の原発での点検作業も加わって、初期のわざとらしい計画停電や鉄道の間引き運転などで人々は過剰に反応し、驚くほど過度の自粛ムードが産業や商業、そして人々の心の中に漂ってしまいました。高速道路や路地の街灯の自粛も交通事故や犯罪を起こしかねません。直ちに点灯し、電力の需要バランスを考えた供給シミュレーションを早急にすべきです。
政府はここらで腹を決め、「状況報告」や「感想」ではなく“希望でもいいから”前向きな提案と明確な指示で総合的なリーダーシップを見せるべきです。特に電気使用はこれから夏に向けて、関東圏と東北の総電力量のグラフを刻一刻と民間に開示することです。
オイルショック以来の「電力使用制限令」の発動をすると経済産業相が表明しました。1974年以来のことですが、これはもともと大口利用企業のピーク時のカットでありました。時代は変わり、当時に比べ家庭での電力量が数倍に増え、一般家庭でもピーク時に1キロワットだけでも減らせば首都圏1000万世帯で軽く1000万キロワットがセーブされることになります。クーラーや洗濯機など家電の使用を、ピークと重なる一定時間、我慢すれば可能です。
もともとこのオイルショックで始まったわが国の省エネですが、それは石油の備蓄と代替エネルギーである原子力で乗り越え、その後は京都議定書でCO2削減が定められて以降、環境に対する思想的エコになりました。いまではノーネクタイなどのクールビズも浸透しています。今改めて太陽光発電や風力発電などの自然エネルギー利用を積極的に取り入れ、さらに深夜電力利用の給湯設備にしたり、ガス併用の空調システムなどに変換するなどで“電力控えめの省電”に心掛ければ原発なしでも十分やっていけるはずです。
そして“エネルギーゼロ”の風通しのよい家や職場を目指しましょう。例えば、このコラムでも何度かご紹介していますが、京都の町家など「中庭式の住まい」で実施されている自然の換気扇の原理や、西日が当たる壁や窓を「壁面緑化」で日陰をつくって涼しく暮らすなどです。これらの緑化のパネルは、後付け工事で、しかもリース契約でも手軽に取り付けることもできるのです。
そしてはめ殺し(ガラスが枠にはまって開かない)窓やカーテン・ウォール(ガラスの外装)のビルも、各フロア毎にサッシの張り替えや排煙窓を改良することで、対角線または対面の最低2カ所は開口をつくり、自然の風を通すようにする。こうして夏場の電力ピーク時に冷房を止めても風通しのよい“昔の家”を目指したらどうでしょうか。
岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。一級建築士事務所アトリエ4A代表。
「日本住改善委員会」(相談窓口・東京都渋谷区松涛1−5−1/TEL03−3469−1338)を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。「日本建築仕上学会」副会長とNPO法人「国産森林認証材で健康な住環境をつくる会」代表。
著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)、『地震から生き延びることは愛』(文藝春秋)、『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)、新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社 実用BOOK)など多数。
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